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なぜ都庁の若手・中堅職員の退職が増加しているのか(その2)

前回、都庁の中堅若手の退職者増加について記事を書いたのちに本業が忙しくなり、更新ができておりませんでした。
ようやく少し手が空いてきたので続きを書こうと思います。
(なお、続きものなので、前回記事より読んでいただけるとありがたいです。)

組織風土に対してどのような不満があるのか


縦割りが強すぎる

令和5年度の東京都職員定数条例の定員は 32,756人となっており、
これほどの巨大組織で運営し、かつ多様化する行政にニーズに対応していくには縦割りにならざるを得ない部分はあります。

しかし、その弊害の部分が大きくなりすぎているというのが実情としてあります。
都庁内では「局が違えば別会社」と言われるほど局によって組織文化が違います。(同じ根拠法・条例に基づく知事部局の局間でも組織文化は違いますし、公営企業局などは更に違います。)
これがプラスに働けばいいのですが、残念ながら横の連携が希薄になっており、局をまたぐ調整はとても同じ職場内における調整とは思えないほど喧々諤々とすることが少なくありません。
更に縦割りの弊害は局間だけではなく、部や課が違う場合でも横の連携がとれずに、調整が難航する場面も多々あります。(とはいえ、局間ほどではありません。)

縦割りの弊害が顕著なのが、(特に年度途中で)既存の枠組みに当てはまらない新しい業務が生じたときに、どの部署で所管するのか争うときです。
本来であれば、既存の枠組みに当てはまらないのであれば、複数部署で協力して解決することが効率的な事が多いのですが、どの部署も慢性的に人手不足・超勤続きなので、自分の部署の所管ではないと言い張り仕事の押し付け合いが始まります。
実際に課長クラスから「本来的にはうちの部署も関わったほうが効率的だろうが、とても手が回らない。なんとか理屈をつけて断れないか。」といった発言があり、担当レベルで屁理屈を作るための会議や資料作成を行うということを私も経験しています。
結果的に、声の大きい部署の意見が通り、部長クラスの判断で適当なところに仕事が振られることがあります。

上記にあげたのは一例ですが、このような内部の無駄な調整にうんざりする若手・中堅もかなり多いと見受けられます。

意思決定に時間がかかりすぎる(意思決定過程で二転三転する)

税金で仕事をする以上、「なにか意思決定をする≒対外的に合理的な説明ができるような状態になっている」ということになります。
基本的には担当レベルでは全ての責任を負うことができないので、適宜必要な部署の意見を聞きながら、上司に諮ることになります。
その際、事案の重要度に合わせてどこまで上司にあげるかが決まりますが、知事や局長クラスが最終決定の場合は地獄を見ることが多々あります。

意思決定のための資料をまとめたら、
「担当⇒課長代理⇒課長⇒部長⇒局幹部⇒副知事⇒知事」と上げていきます。
(この途中で複数の関係部署や政策秘書が間に入るパターンもあります。)
大体は課長代理と相談しながら担当が資料を作ると思いますが、残念ながらこれだけ関与者が多いと決定プロセスでたくさんの指摘を受けることになります。
それが一貫していればまだいいのですが、課長に言われた通り修正したら部長の指摘で元の案に戻るなんてことは日常茶飯事です。
また、指摘を受けると基本的には上記プロセスを最初からやり直しになりますので、例えば局幹部に指摘を受けたら課長、部長には再度レクが必要となります。(もちろん指摘が軽微であれば省略できる場合もあります。)

流石にこれだけ指摘を受けて何度もプロセスをやり直すのは担当だけでなくもちろん課長や部長も嫌なので、結果的に上位者への忖度が始まります。
「都民にとっていかに良い政策か」より、「知事や局幹部にウケがいい政策」が選ばれる傾向にあります。(もちろん全てではありません。)
これは上位者が常に正しい判断をしているのであれば支障はありませんが、やはり現場感を知らない上位者は細かいところの知見はないので、往々にして歪んだ政策になりがちです。
本当であればこうしたボトムアップの声も伝えて上位者に判断していただくべきですが、意思決定プロセスによる疲弊により上位者への忖度が生じてしまっています。

こうした事態が起こっている原因の仮説ですが、多くの場合上位者がきちんとビジョンを語れていないからだと思います。
これだけ大きな組織だと、向かうべき方向を上位者が決めて、具体的にどの道を通るかはどんどん現場レベルで判断していくべきだと思います。
ただ、現実的には方向も決めずに進めと言われて、迷いながらも進んでみたら方向が違うと言われているような状態になっています。

管理職になりたいと思いづらい環境

これは都庁に限らず若者の管理職離れみたいな文脈で語られることも多いかとは思いますが、都庁でも事象として発生しています。
公表されているデータからは受験者数は拾えませんでしたが、実際中では受験者数の数値が毎年公表されており、受験者数は年々減少傾向にあります。
(受験機会の拡大や柔軟な試験制度の導入があってもこの傾向に歯止めがかかっていません。)

一昔前であれば、管理職試験対象者については、課長などからとりあえず申し込みはするよう(部下の受験状況が課長の評価にも影響すると言われているため。)に半ば強制的な指示を受け、無勉強で筆記だけ受けるみたいな人も一定数いたかと思います。
が、今のご時世ではそうした圧力もパワハラ等になりかねませんので、課長からの受験指示ももう少しマイルドな形になっており、そうした影響が受験者数減に繋がっている部分は多少あるかと思います。
しかし、大部分は若者の思考の変化にあるというのが私の仮説です。

そこを紐解くために、管理職になるメリット・デメリットを比較してみたいと思います。
都庁で管理職になるメリットとしては、以下があります。

  • 給料が上がる。

  • 残業が減る。(部署・本人の仕事の仕方にもよるが一般的には。)

  • 意志決定ができるようになる。
    (厳密には旅費の承認など課長代理でできるものもあるが、基本的には管理職以上が意志決定を行う。)

  • 部下に対する人事権を持つようになる。

  • 議会・マスコミ対応ができるようになる。

一方でデメリットは以下になります。

  • 管理職試験の合格率が低いため、勉強・試験対策が無駄になるリスクが高い。

  • 管理職になる前の修行期間(通称ローテーション)で困難ポジションに配置される。(特にA合格者の場合)

  • 事業そのものを直接行うことは原則的になく、部下を監督・指導することが仕事になる。
    (これがメリットになる人もいると思います。)

  • 自分の失敗だけでなく、部下の失敗の責任も負う。
    (仕事だけでなく、万引きや飲酒運転などが起きた際に責任を取らされます。)

  • 出世するのに上や議会へ忖度するか、出世を諦めてやりたいことを貫くか迫られるケースもある。(そもそも忖度する上司を見て、ああはなりたくないと思い管理職になりたくなくなる。)

  • 数年で異動するので、自分より事業に詳しい部下を指導しなければならない。

  • 部下の不平不満を受け止める必要があり、パワハラには一層警戒しなければいけない。
    (例えば、育休を取る職員が出ても、代わりが補充されず残業が増えているなど。⇒都庁は基本的に欠員が出ても年度末まで補充はありません。)

おそらくメリット・デメリットともに他にもあるとは思いますが、こうした事情を比較してデメリットのほうを強く感じる若手が多くなったのだと思います。
特に管理職試験対象者向けに配られる管理職の魅力では、影響力の大きい仕事に対して意思決定できるというのが魅力として語られることが多いですが、現状の組織風土だと忖度が大きな壁になっているように感じます。

組織風土の魅力

マイナス面だけだと都庁の離職をあおるだけになってしまうので、都庁が相対的魅力として良い点も述べます。
ただ、本記事の趣旨とズレますので、箇条書きにすることをお許しください。

  • 首都東京で各自治体を牽引するという意識がある。

  • 定常的な業務はマニュアルがきちんと整備されていて、ベテラン職員からのナレッジシェアもある程度は期待できる。

  • 出る杭が打たれるということはなく、成果を出せば認められる風潮がある。

  • 基本的に管理職以上が責任を負うため、若手が責任を取らされるということはあまりない。



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