孤独の翼

わたしというちっぽけな体が
孤独な一対の翼が
風をとらえて飛翔する
知らない場所は手招きする
知らない言葉で呼び寄せる

独りだけで飛ぶ時間の中では
世界に自分一人しかいない
しかし世界は自分のものではなく
むしろ自分は世界の一部でしかなく
独りであっても一人ではない

気流の中で静止し独り考える
はじめて空を飛んだ鳥は
はたして幸せだったのか
もし飛ばざるをえなかったが故に
飛んだのだとしたら
そこに不幸さがにじんではいなかったか

独りの時間は明けて暮れる
味方は星と月しかいない
太陽は恵むとともに
光と熱 そして従属する大気で
惑わし いたぶり 羽を削ぐ
気流すらも神の見えざる手

手招きのまま知らず知らずに目指すのが
からっぽのがらんどうだとして
最後に笑うのは太陽だけだとして
勝者も敗者もないレースだと心得れば
弟子も師匠もいない営みだと心得れば
これ以上心安らかなことはない

はじめて空を飛んだ鳥は
二番めに空を飛んだ鳥と出会うまで
どれだけ飛んだだろうか
それとも二番めに飛んだ鳥と
出会うことなく果てたのか

わたしは何番目に空を飛んだ鳥なのか
どの鳥もたどり着いたことのない場所は
存在するのか
思考はこの星の大気の流れにも似た
気まぐれな迂回をつづけ
規則的な昼夜の訪れのように
とどまることなく

一度止まれば風は
わたしをおいて雲を道連れに
わたしの荒い息すら道連れに
さっさと行ってしまう
その行き先が未来なのかなど
知ったことではないけれど

決して追いつけない風たちを
追いかける行為に
本質的な意味がなかろうと
それがある種の逆説だろうと
今のわたしにはどうでもよかった

世界の一部としてそこにありつづけること
風の一部として彷徨すること
考えつづけ飛びつづけること
独りでいつづけること
やがてたどり着く場所を夢想すること
風を見送るタイミングをつかむこと

わたしというちっぽけな体を
孤独な一対の翼を
風はまだとらえたまま
離しもしない
知らない言葉はまだ遠く
知らない場所はその彼方

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