湿り気を帯びた音楽

音の波の粒のひとつひとつに
蓮の葉の朝露みたいなのが
ちょこんとのっかったような
湿り気を帯びた音楽を
手元においておきたい

日曜の遅い朝みたく
くるまれのままに
眠気の舟にたゆたう
あの手触りに似た
湿り気を帯びた音楽を

何も抱きしめていなくても
じんわりとあたたかさや
ひそやかな圧力をくれる
小さくて でもたしかな
湿り気を帯びた音楽

日々の数珠つなぎのあいだに
すっぽりおさまる
湿り気を帯びた音楽
そのしっとりで思いもよらぬ人を
引き寄せてなにもせず見守るような

湿り気を帯びた音楽
何かの鍵になるようでいて
それ自体 なじんだ木のにおいの
扉のふりをして
気づくとそこにあるような

ぜんぶを受けとめない
でもぜんぶを許すような顔で
いちばんやわらかい場所を
きもちいい力加減で
つねってもんでくれるような

そんな曖昧さの人なつこい
湿り気を帯びた音楽が
いつもそばにいてくれれば

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