見出し画像

上り坂をみると切なくなるのは

上り坂を見ると
上り坂を上ると
すごく切なくなるのです
どこか懐かしいような
まだ見たこともないような
そういったあいまいなものを
目隠ししてなでているようで
不思議であたたかくて
不安なてざわりを
感じてしまうのです

飛び立つような傾斜の地面
自分の影を引きずるように
後ろ髪を引っぱるように
地面とわたしのあいだを結ぶ
いびつな万有引力
筋肉はささやくように
わたしの中で衣擦れをたてながら
自らの体重を持ち上げてゆきます

ずっと上を
ずっとその先を
切り取られて見えない先を
まっすぐ見すえているのに
てっぺんが青空でも曇天でも
わたしはまだらな灰色の感情を
神妙に抱えながら歩むのです

上りきって振り返ると
あえぎながら歩んだ坂道が
伏し目がちにわたしをみつめ
今まで見えなかった眺めが
わたしをはれやかに見上げてきます
そして
こんなところまで来てしまったのかと
よけいわたしは切なくなるのです

いまでもわたしは
上り坂の先に
切なさの正体を
てざわりの導くものを
探しているのです

未来の記憶
もしくは
過去への期待
そう呼べるような
ありえないものを探すように
おずおずと
しかし切実に
坂道の先に
手をのばし続けています

でも もしかしたら
それを求めることこそが
切なさの泉をわき上がらせる
地下水脈なのかもしれません

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?