(詩)珈琲の味

考えることをやめようとせず
安易なほうへ流されることに
いつだって抗おうとして

サーチエンジンの向こうでなく
わざわざ自問自答の中に
答えを見つけようとして

100人中のn人になってしまう前に
せめてちっぽけなままで
ありつづけようとして

そんなきみの淹れたコーヒーは
某かでしかないぼくには
ただひたすら甘くて苦かった
今のぼくにもまだ手に余る
昔ムリして好きって言った味

自分にうそをつくのがいやで
火傷しながら白黒まだらな心を
見せびらかすように持ち歩いて

痛みの一歩向こうにある何か
そういうものしか信じられないからと
人なつこい顔にいつも深い谷を刻んで

耐えるだけ耐える日々を送ってるのに
困った人のことを置いていけないうえに
取りこぼした悲劇の数だけ涙して

そしてぼくの淹れたコーヒーを
いつも傷だらけのきみは
昔どこかで飲んだような味だと言う
某かでしかないぼくにはこれがせいぜい
平凡で十人並みな味なはずなのに

何者かになろうとして
でも甘苦いコーヒーに
慣れられなくて 淹れられなくて
某かにしかなれなかったぼくは
後ろめたさのにじみ出た
コーヒー味の湯に慣れてしまった

きみはお世辞も文句も言わずに
ぼくのコーヒーをおかわりした
めずらしくきみが気を使ったのか
一杯じゃ物足りないからなのか
わからないままぼくは言った
またきみのコーヒーが飲みたい
ぼくには濃すぎるけれど
あれを飲むと不思議と
ぴんと背筋が伸びるんだ
たまに飲まないとなにかを
見失いそうになるんだ

わたし 自分の淹れるコーヒーの味
ホントは好きじゃないんだよね
そう言いながら 
少しほっとした顔をしながら
でも 機会があれば いつか
また背中を丸めて
無言でコーヒーをすするきみ

ぼくは安心するでもなく
居心地が悪くなるでもなく
きみがコーヒーを飲むのを
ぼんやりと見ていた

あんなことを頼んでおいて
きみのコーヒーの味が
いつまた味わえるか
わからないからって
こっそり試みようとするぼくがいた
甘苦いコーヒーを淹れるのに
足りないものがなんなのか
きみに追いつくのにどれだけの
お湯と豆とフィルタが必要なのか

それとも
そんなものはいらないのか

ぼくはきみがコーヒーを飲むのを
ぼんやりと見ていた

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