旅情(詩)

日々の動きのほのかな跡から
きまぐれに切り取られ
迷子のようにおいてかれて
だのにそんな湿ったところから
そっと ぬっと顔を出し
ほがらかに手を振って
わたしを招いてくるなにか

その声は聞こえない
見覚えもどこかにうっかり
置き忘れてしまった
すこし途方にくれなずみながら
わたしもおずおず手を振りかえす
でも あちらにも
わたしの姿は見えないらしい

もどかしくなつかしく
もっともらしくあずましい
奇妙な孤独同士の呼び合い
そしていきなり波長が合う奇跡
こころのすきまから
じわりと漏れ出す
やわらかい
不定形のせつなさ

がらくたのような
こころの中のみやげものたち
合図があればいっせいに
わたしのなかにある
わたし以外のなにかを
がちゃがちゃと応援しはじめる

他人の顔した未知のわたしと
ちゃんと出会わなきゃと
からだじゅうの筋肉を
そわそわとせかされて
かたまりかけてたこころを
湯煎でとかされて

とりあえず旅に出ましょう
長くても短くてもいい
旅の恥はかきすて
なんて言わないで
郷愁も憧憬も定義不能な心痛も
すてた分だけ拾いあつめて
からだをもっと
そわそわさせましょう
こころをもっと
とろとろさせましょう

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