さわがしい凱旋

大洋でひろったかぐわしい香りと
やわらかい湿り気を
港町と緑の山に落っことしてきた
おっちょこちょいなかわいた風が
空耳のような
ときの声をはこび
陽気な亡霊たちの帰還をつげる

勇ましかったもの
無謀だったもの
臆病だったもの
賢しらだったもの
海のものとも山のものともつかぬ
名も無き亡霊たちは
自分らが死んだこともわすれて
風にのって
かろやかに
踊りながら
さわがしく

勝者もなく
敗者もなく
かれらの屍だったものの影は
すでに見たことのない季節の彼方
ときはなたれた魂のみが
さびた鎧を脱ぎ捨てて
年にいちど
うれしそうに
すべてを風で翻す

子孫も先祖もあるものか
豊穣の風の帰還なるぞ
でたらめな凱歌をうたいながら
りんごの樹を踊らせ
いちじくの葉を惑わせ
孤独な蛇を熱で焦らせ
ピエタの像を明るく染め
免罪符を残らず吹き飛ばし
教会の鐘を乱打しながら
有象無象のから騒ぎ

リズムをきざむは
なつかしいしゃれこうべ
にぎやかなポルターガイスト
石畳の小さな村は
いつしか祭の温度
霊障のファンファーレは
村の爺どもを暑さで半裸にする
憑依する燃えるような歓喜を
若者はロカビリーで出迎える
死者も生者も虹色のカクテルをあおり
酩酊の暴走特急は夜を徹して村を巡る

熱を帯びた凱旋の群れは
やがて黄金色の麦畑をなでて
次の村へと向かう
その小麦からできるパンは
焼けるときにきっと
あの凱歌をぱちぱち奏でるだろう

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