(詩)忘れることはできない

忘れることはできない
忘れることなどできない
ただのひとつもない
忘れようとして
忘れられるものなど

何をもって
忘れたということになろう
せいぜい
たまたま
起こってしまったことを
覚えてしまったものを
三日分の新聞紙にくるみこみ
ビニール袋に詰めこんで
かたく口を縛り
段ボールとガムテープで
がんじがらめに包みたおし
物置へ乱暴にほっぽりだして
やがてそこにあることを
意識しなくなる
その程度でしかない

忘れることはできない
忘れようとできない
存在してしまったものを
忘れられないものを
忘れたりはできない

忘れたものは
そもそも覚えていないだけ
忘れてたと言って
思い出せるものは
幸運にも覚えられていなかったもの
覚えようとして
覚えていたものは
覚えているのを忘れれば
幸運にも朽ちてゆくもの
覚えたくもないのに
覚えていたものは
覚えられたのではなく
不幸にも覚えてしまったもの

忘れることのできない
忘れられないものども
忘れることもできない
覚えてしまったものども

そのひとつひとつが
骨のきしみのように
肉のたわみのように
今日も内側に棲みつき
残照を帯びてささやいている

忘れることはできない
忘れることなどできない
我々は存在しているのだ
存在してしまったのだから

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