ばかもの

何事も自明ではない生
何事もままならない世界
誰にもなれないまま訪れる老い
誰にでも訪れる死の平等さ
そういったものを憂い
憂えたふりをしては
達観と諦観の仮面をかぶり
子供じみた笑いを隠している

あなたがしたり顔で
どこかで見たような
正義を語るとき
別の人は 何が正義なのかと
悩んで口をつぐんでいる
そんなことを言って
何か言った気になっては
こうしておけば
過ちをおかさないと
無邪気な算段をしている

自らの愚かさを知る者は不幸
自らの愚かさを知らぬ者は
もっと不幸
そんなことを思いつきで
だれかから聞いたふうに
うそぶいては
自らの愚かさを
知ったふりをして
ふりだけをしながら
さかしらに予防線を張る

評論家の言うことを
聞く必要はない
評論家の銅像など
立ったことはないのだ
どっかで聞いたことの
あるような話を
したり顔でして
してやったりと思いながら
自分がはじめての
銅像になった評論家になろうと
ちんけな野心を手放さない

何のため生まれたのかもわからず
何もいいことがなく
何事も遅すぎて
何かなかったかと振り返ると
正義すらなせず
愚かさから顔を背け
知っているというだけで愉悦に浸る
ばかものがそこにいた

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