(詩)ソング オブ バード

ひとり 暗闇を飛ぶ
夜明け前よりも暗いかなたに
虹がぽっかりと浮かぶ
追いつけないそのむこうに
何があるかは知らない
でもわたしは飛ぶ
すべてをなげうっても
みんなのために
だれかのために
そこにあるものに
手を伸ばしたい
そうすることで
あの日裏切ってしまった
わたし自身に
報いることができる
そう思ったから
でもそんなとき
歌が聞こえた

みんなとみんなをつなぐ
みんなとわたしをつなぐ
過去とわたしをつなぐ
いまとあの日をつなぐ
あの場所とこの場所をつなぐ
わたしとわたしを
つなぐ

わたしがおいていった
みんなのことは
たしかに好きだけれど
みんなのやさしさに
わたしのねぎらいを
溶かし込むのも
いいことだけれど
あの場所にいるよりも
ここで飛んでるほうが
わたしらしいから
記憶にしかないぬくもりから
遠く離れてしまって
うまく信じられないわたしには
ほんとうの居場所が
ここにしかないんじゃないか
ひた隠しにした思いこみが
わたしをひたむきに飛ばすから
そんなときまた
歌が聞こえた

みんなであしたをつむぐ
わたしの日々をつむぐ
あの日から離れてつむぐ
記憶をもいちどつむぐ
ここの物語もつむぐ
わたしはわたしを
つむぐ

歌も虹も振り切って
わたしはひとり手を伸ばす
あの日の後悔も
いまのおそれも
痛みとともに
ぎゅっと抱えこんで
指の先のその先には
世界中のまばゆさを
集めたような珠ひとつ
でも伸ばした手は
届かないまま
あと0.25センチの
短くて遠い永遠のむこう
どうすれば手が届くのか
一刹那の自問自答は
いまのわたしのように
一進一退の躊躇をくり返して
期待と諦めをくり返して
また 歌が聞こえて

つなぐ つむぐ
つなぐ つむぐ
縦の糸と横の糸
時と場所と心が
たとえ離れても
つなぐ つむぐ
つなぐ つむぐ
ほつれた糸たち
からみあっては
心と心をつなぎ
あしたはつづく

急に思いうかんだのは
涙にまみれたみんなの笑顔
あの日に分かたれる前の
なつかしい記憶のぬくもり
分かたれても分かつことの
できない不思議なつながり
わたしだけでは終わらない
かたちのない記憶をなぞる
星のかけらのつくる星座
わたしの心の扉をあける
だれかの影

気がつくとみんながいて
みんなといっしょに
珠を手にしていて
わたしはまたここにいた
元のようにここにいた
なんだかよくわからないけれど
もうひとりで生きるのは
ひとりで生きようとするのは
あきらめることにした
そうすることで
あの日裏切ったわたしの手を
もう一度つかめると思ったから

こんどわたしが歌うばんだ
暗闇の中で聞こえた
道標のような歌にむけて
おずおずと口ずさむ

みんなのあしたはつづく
みんなとのつながりはつづく
あの日からのわたしでつづく
あたらしい記憶へつづく
それぞれの場所でつづく
わたしの旅も
つづく

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