小説(「つきあたりばったり」改め)「tripper」まえがき&第0章

さて、唐突だけど小説を書いてみたいと思う。

構想0秒、執筆()は己のドライブ感のみをたよりに、いきあたりばったり、口からでまかせで書いてみる。

理由は、まあいろいろあるけどもはっきりしないのでとりあえず『特にない』ということにしたい。

そもそも、小説家になりたい、とはずっと思ってたけれど、小説を一本書き上げることなど一度もなかった。

なので、この小説も途中で飽きて放置されてしまうかもしれないけれど。

ちなみにタイトルの『つきあたりばったり』には特に意味はありません。たぶん。しかも仮です。

(追記:タイトル変えました)

それでは、はじめます。

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男はゆっくりと目を開けた。

まぶたの隙間から差し込む光の束は、やがてゆっくり、おぼろげながら像を結び始めた。

雲だ。
深い深い青に、雲がぽっかりと浮かんでいる。

雲は男に構うことなく、大の字になった男の視界を横切ってゆく。

それをしばらくながめたあと、男は首を横に倒した。

生い茂った草と、その向こうの、なだらかな緑の丘陵。

丘の向こうから、緑の波が押し寄せてくる。風が吹いているらしい。

丘陵に緑の濃淡を作りながら迫る草の波は、やがて、音もなく、男の横をすり抜けてゆく。

風が通り過ぎたはずなのに、何の感触も残さぬまま。

男は横たえていた上体を、ゆっくりと起こしてみた。
まるで体と魂のサイズが合っていないかのように、体はぎくしゃくと動く。

それは、長い間なのか、ほんの数分か、眠っていたせいだけではないようだ、と彼は直感した。

見渡すばかりの晴天の草原と、それに似つかわしくない、低い唸り

草原のベッドとは思えない、張力のある地面。

おそらく定期的におとずれているであろう、体がゆっくりと持ち上げられたり、地面に押しつけられるような、加速度を伴う感覚。

よく見ると、生い茂った草が自分の手を突き抜けて生えている。

自分が実体のない存在なのか、それともこの草が実体を伴っていないのか。
ここまで感じた周囲の様子からするとそれは自明だ。

くだらない仕掛けだ。彼は思った。

男は上体を再び地面にあずけ、軽く伸びをする。

体を伸ばすと、じりじりぶるぶると、体と魂が互いに距離をつめ、すり寄せあい、あるべきひとつのかたちにフィットしてゆくような感じが男の体を満たした。

彼は腕を頭の真上にやったまま、また空を見つめる。

空には雲が流れているものの、どこを見ても太陽はない。光源のない、もしくは全体が光源の空がただただ広がるばかり。

このまま、妙な仕掛けにとらわれているままでいるわけにもいくまい、と思いながら伸ばした腕を横にやろうとした瞬間、左手が固いものにあたった。

視線をやると、古びたラジオのようなものが置いてある。

いぶかしがりながら、妙に張力と弾力のある地面のうえで寝返りをうって、ラジオに手を伸ばした。

ラジオの電源は入っているものの、音は全く出ていない。ふるめかしい木のキャビネットから突き出た砲弾型のダイヤルを回してもうんともすんとも言わない。

いい加減音楽でもニュースでも聴かせてくれ、スイッチの接触がわるいんじゃないか、と電源スイッチに手を伸ばした、

その瞬間。

~~~~~~§~~~~~~

窓からは光が差し込んでいた。太陽が天のてっぺんをとうに過ぎ、もう少しで黄色い粒子を纏った西日へと変わるくらいの時間。
最後のベッドのシーツを交換しおわり、窓からいつもの単調な風景ぼんやりを見ていたら、どこかで鐘が鳴った。だが、ここに鐘があるなんて聴いたことがない。鐘の音自体も、やたら耳に刺さる、かなり圧縮され荒れた音質のものだ。
廊下を通り広間へ駆けつけると、広間だけが何故か暗い。513号室は午後の気怠い日差しに満たされていたというのに。そしていつもそこにあるはずの、下から突き上げるような低い唸りや細かい振動すら感じない。
しかしやらなければいけないことがある。でも何を?と思いつつ、広間の暗闇の中心へと足を運ぶ。まとわりつくような闇。鐘の音など、鐘があったかどうかすらもとうにうっちゃられている。鐘の音は合図でしかない。鐘の、音は、合図、で、しか、ない。
気がつくと、高い建物がいくつも並ぶ街角にいる。いや、高い建物と思われたものはすべて書き割りだった。そういえば、高い建物は画像でしか見たことがない。だからか。だからなのか。
書き割りの高層ビルの間を縫うように道が続く。いつの間にか周りは明るくなっている。見上げると雲だ。深い深い青空に雲がぽっかりと浮かんでいる。
何者からか逃げている。何者かはわからない。誰だっていい今は逃げているのだ。やらなければならないことは捨て置けばよい。
追いつめているのか追いつめられているのかわからなくなったとき、突然蝉時雨とともに右手の掌から角張ったいぼが生えてきた。手が熱い。いや本当に熱いのか。ほんとうに『熱い』という状態を自分は知っているのか。
熱いのか疑念を持つよりも、すすんでその手を冷やしましょう。ちょうど神社にいるので、手水で冷やしましょう。鋭く西日が目を焦がす。手水はとろみがついてぬるぬるしている。熱いいぼがみしみし言いながら冷やされる。本当に熱いのかはもう関係ない。関係ないのだ。
だが手から熱くなった手水が落ちると、手水場がどんどん崩れ始めた。とろみのついた手水はあっという間に茶色くなり、凄まじい重力を生む。手水場から真っ二つに崩壊する手水場。いぼの出来た手で、神社だったはずところに出来た断崖に捕まる。見下ろすと、 光源のない、もしくは全体が光源の空がただただ広がるばかり。
恐怖心(そんなものはほんとうに自分に存在するのだろうか?)で震えながら掴まっていると、体が下に引きずり込まれるような感覚に襲われる。
目の前が真っ暗になる。

そんな夢を、『それ』は見ていた。

いや、そもそも『それ』が見ていたものが夢なのか。『それ』は夢を見るものなのか。『それ』自身にもわからなかった。

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