(詩)名前のない日々

名前もなく刻をわたり
誰かのなまえに出会うまで
越冬する花の種のように
時をとめたぼくら

あの日出会ったあのなまえの
けがれのない瞳のこと
もう覚えてないはずなのに
いまもわすれられない

追いかけても行けないところまで
刻の河のむこうまで行ってしまって
影だけを残したなまえを忘れて
ひざをかかえてぼくは眠った

名前も忘れたぼくを起こしたのは
芽吹きを戸惑う小さななまえ
きみのくれたくすぐったい形は
なつかしく新しいなまえに合っていて

呼び合うなまえとなまえを
数珠つなぎにしてぼくら
名前のない毎日を不器用に
ひとつずつ追いかけた

そして名前のない日々は
やさしい涙をあつめたたえて
光もないのに輝きはじめた
なまえたちの夢みるいのち

名前のない日々は
いつか名前をつけられて終わる
刻をふたたび動かすのに
ぼくもなまえを忘れなきゃいけなかった
 
ぼくのことなら心配しないで
あの日のけがれなきなまえが
ようやくぼくに追い付いたんだ
あの眠りがあったからまた出会えたんだ

そして忘れないできみたちも
忘れてもわすれられないものを得たんだ
なまえのいのちが限りある刻の中
もとある時と場所で輝くために
 
忘れてしまうきみたちのこと
きみたちが忘れるぼくのなまえ
みんなむだじゃないから
昼は隠れてしまう星のように


動きはじめた刻のつぎに訪れる
あたらしい時のなかで
ぼくの名前も芽吹いて
見知らぬなまえで咲くのかな

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