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私的詩手帳

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2022年9月の記事一覧

(詩)しずむ

日々のあくは
うかびあがって
すくいとられる
こともなく
いずれいずこへ
内のうちまで
しずみ しずむ
音もないまま

膜のうちの
しょげたゆめは
うかばれぬまま
うかぶまま
熱にうかされ
すかされて
すずみ すずむ
秋のゆうぐれ

いかりを下ろし
あめかぜよける
みずのそこには
あの日のおもい
きまずいうずまき
きりきりまいで
よどみ よどむ
見えないこころ

試しあいした
みじゅくなみそぎ

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(詩)雪平鍋

湯は空気の玉を含んで
ふつふつおどり
湯気を吸い込みながら
換気扇がまわる
今日も熱を受けとめて
あいつからもらった
黒ずんだ雪平鍋

薄きいろのかたまりが
沸騰の中でほどける
百度近くの熱と
五百ミリリットルの水をえて
膨れあがる期待
あの日笑顔の
あいつからもらった
黒ずんだ雪平鍋

あいつからもらった
黒ずんだ雪平鍋
あの日の輝きはもうなくて
でも今もここにあり
いつものように
一袋40円の

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(詩)白石本通

ワイドパンツを翻し風が吹いている
彼女の髪の先がふわりと肩を離れ
互いがじゃれるように舞いはじめる
三十分前に洗った髪から
水分にしがみついた香料が離れ
風下へと儚い旅に出る

時を同じくして
パン工場の機械式のかまどから
小麦やら水分やら熱やらに見送られて
小さくわずかな粒子が
母なる酵母からのなごりを湛えて
うわついたように飛び立つ

粒子はロバの彫像の鼻先をかすめ
空気と戯れながら
彼女の鼻

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