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ガイドから見たヨーロッパ文化遺産の日の舞台裏

毎年9月の第3週末はヨーロッパ文化遺産の日(Journées européennes du patrimoine)となっています。フランスでは土日にかけて多くの歴史的建造物が無料で解放されたり、普段は訪れることのできない建物を見学することができます。

今年はこのイベントにブルターニュ地方にあるレンヌ観光案内所のガイドとして参加することができました。担当をしたのはレンヌだけでなくブルターニュの至宝とも言える建築物のブルターニュ高等法院(Parlement de Bretagne)。

「小さなヴェルサイユ」と言っても過言ではないように、建築だけでなく装飾を担当した芸術家たちが現在のルーヴル美術館やヴェルサイユ宮殿、リュクサンブール宮殿などを手がけたことでも知られています。建物の中を歩けば、まばゆいばかりの美しい部屋の数々に、当時のブルターニュ高等法院の力をうかがい知ることができます。フランス革命以前はブルターニュでの終審裁判所でもあったこの建物は、現在でも司法の役割を担い、裁判所として使われています。

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ツアーの内容はフランス語で約30分。無料のツアーということもあり、何千人単位の人が訪れるので、この週末ばかりは通常のツアー定員の2倍以上の最大80人のグループをマイクなしで数人の同僚たちと交互にガイドをしていきます。

80人のグループを地声で相手するのは相当なエネルギーが必要です。グループの後ろの方は全く見えないので、少しでも声の強度が落ちたり、発音や滑舌が悪くなると後ろの方は聞き取るのが難しくなります。さらには、他のグループが前後にいるので、邪魔にならないように同じリズムでツアーを進め、30分前後で終わらせなければなりません。

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4本目のツアーくらいになると徐々に疲労が脳や体を蝕んでいきます。喉を使って話すとすぐ潰れてしまうので、腹式呼吸を使って話すと体全体に疲れが回ってきます。特に、2日目は1本目から80人のグループでスタートしたこともあり、最後の6本目(7本目だったような気も?)の時はすでにギリギリの状態で、声を出すだけで精一杯でした。

一緒に働いていたフランス人ガイドの一人が「ヨーロッパ文化遺産の日の後には絶対に仕事を入れない」と言っていた理由も分かる気がします・・・。

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日本でガイドをしていた時は日常的に通訳案内士としてフランス人を案内していましたが、やはりフランスでフランス人をガイドするというのは特別なものがあります。

日本でガイドをしていた時は、自分が日本人であることで言葉の面での多少の不出来があっても助けられていた部分があったんじゃないかと思います。それに反して、フランスでフランス人をガイドする場合、そこは全く考慮されないので、単純にガイドとしての力量が試される訳です。

場合によっては、かなり専門的な質問もあり、ブルターニュ高等法院に関しては、美術や建築はもちろんですが、実際に裁判所としての機能や司法の仕組みにまでその知識を広げる必要があります。

どのくらいの人に満足してもらえたのかは分かりません。ただ、ありがたいことにチップを頂いたり、拍手をもらったり、ツアーの後に熱心に質問を頂いたり・・・そういう意味では多少は評価してもらえたのかなと思います。その点では満足というか安堵の気持ちが大きい気がします。

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ヨーロッパ文化遺産の日にガイドとして参加するのは今回で2回目でした。今回改めて感じたのは、きっかけはたとえ無料開放であっても、日常ではあまり訪れる機会のない歴史ある建造物を多くの人に訪れてもらうことによって、地元の文化財への愛着が深まっていくんだなということ。そして、それを守ろう、大事にしようという気持ちが芽生えていくということでした。そして、その橋渡しとなるのがガイドとしての使命の一つでもあるんだな、と改めて実感した2日間でした。


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