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「乳顔占い」

奇祭まみれ4
「乳顔占い」(ちちがおうらない)

「ざっばー-ん」
男たちが海の幸めがけて岩場から勢いよく飛び込むときの音は、はるか2里も先まで響いた。

大分県臼杵市では、男子が15を超えると「関岩」と呼ばれる高さ6mの奇岩から飛び降りて漁を行う。アジやサバなどの地元の特産品から、アワビやウニなどの魚介類まで幅広く取れるというが、この地域では「がごめ」という肉厚の昆布も有名である。この「関岩」の周辺は引き潮が集まる地形となっており、栄養豊富な海域として特に「がごめ」の特異生息域となっている。

「関岩」からの飛び込みと、豊後水道の荒波が重なる衝撃は相当なものであり、飛び込んだ拍子に「がごめ」がほぼ必ずと言っていいほど体にまとわりつくという。「がごめ」がへばりついた体をみると、なぜか人の顔のようになるというから不思議である。

15の初漁の際にできる、この「がごめ」と乳首とへそからなる表情をもって、その後の人生を占うという「乳顔占い」という風習が生まれたのは、大正初期のころであるらしい。「がごめ」が乳首の上について眉毛のようになると「豊後」、乳首の下について皺のようになると「肥前」、へその上について口髭のようになると「高千穂」と呼ばれる。「豊後」の中でも、上り眉は「栄え豊後」、真横は「寝豊後」、下り眉は「鬼豊後」として、それぞれ未来の繁栄、平穏、信頼を表しているという。
また、ごくまれに、ふんどしに「がごめ」が絡まることで顎髭が生えたように見えることがあり、これを「秘宝館」と呼ぶそうだ。「秘宝館」は「子宝に恵まれる」とされる。臼杵市出身の「阿部精之助」は、見事なまでの「秘宝館」を見せたと伝説が残っており、地域の発展に大きく寄与したそうだ。JR「臼杵駅」に、その「秘宝館」姿の精之助の銅像が建てられているが、その腰周りのあまりの「がごめ」の量に「腰蓑をさげた若者」と見間違える人も多い。

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