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「萌え珠」

道具まみれ1
「萌え珠(もえだま)」

萌え珠は、メイドの聖地、秋葉原においてかつて存在したといわれている、約1.5㎝大の透明なビー玉のようなものである。2012年まで存在していた「日本メイド協会」において、新しくメイドとして働くすべてのキャストに配られていたそうだ。

「萌え珠」は、メイドがキャストとして給仕する際に必ず身につけなければないという決まりであった。「萌え珠」には、メイドとしての「萌えの精神」が宿るといわれており、なにか困ったことがあれば「メイドならまず萌え珠に戻れ」と先輩から必ず指導を受けるという。

今では一般的となった、ドリンクやフードを提供する際の「もえもえきゅん」の合言葉も、かつてはこの「萌え珠」をかざして唱えるのが習わしであった。東京農大の食品加工研究室の調査によると、「萌え珠」をかざしたときとそうでないときとで、糖度が1~2度ほど変化するという結果も出ている。また、メイドとして経験を重ねるごとに、「萌え玉」の色が変化していくそうで、淡いピンク色から最後には見事な萌黄色にまでなるという。何を隠そう「萌え」の語源は、この「萌黄色」に由来するそうだ。

そんな「萌え珠」がこの世から姿を消すきっかけとなったのが、SNSの台頭である。一部の心無いメイドやマナーの悪いご主人様によるSNSへの投稿により、萌え珠目当ての短期のバイトやネットでの転売などが横行しはじめたのだ。結果として「萌え珠」の神聖さが失われていき、その存在も影を潜めていくこととなる。

かつてのメイドたちは、自分がお屋敷を離れる際に、一番お世話をさせていただいたご主人様に「萌え珠」を渡すという伝統があったそうだ。秋葉原の街を歩いていると、ごくまれにこの「萌え珠」を身に着けているオタクに出会うことがある。彼らの持つ「萌え珠」越しに見る今の秋葉原は、果たしてどのように映っているだろうか。

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