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「しとどつくし」

道具まみれ4
「しとどつくし」

しとどとは潤すこと。つくしとは「澪標(みおつくし)」のつくし、つまり標識のことである。江戸時代に飛脚が道路標識がわりに使っていたものがそれである。素材は当時はまだ高価であった陶器製で、それなりの大きさだ。私も一度抱えようとしたことがあるが、果たしてピクリとも動かせなかった。当時の飛脚はこれを両手に抱えて1里は移動したというから驚きだ。「東海道 しとどつくしと 飛脚なり」という句はあまりにも有名だ。

「しとどつくし」は標識としての機能だけでなく、道中の飛脚の喉をうるおす、いわば給水としての役割もあった。「しとどつくし」に「しとど」の言葉がつく所以である。真ん中が深く窪んだ形になっており、そこに雨露が溜まる。下に栓がついており、竹の水筒から水を汲んだ。富士の雪解け水よろしく、土地土地の「しとどつくし」に味の違いがあるらしく、それ欲しさに仕事を請け負う飛脚もたとか。

7年に一度行われる行事として、長野の「御柱祭」「善光寺ご開帳」などが有名だが、東海道の「しとど回し」も忘れてはならない。「しとどつくし」を横に倒し、グルグルと回しながら、屈強な男たちが国道1号線を一心不乱に駆け抜ける。みんながその年の「しとどおとこ」になることを目指すのである。男たちが見せる「しとど回し」はもはや芸術的であり、見るものの目を強く奪う。箱根駅伝にも全く引けを取らない6月の風物詩である。

「新春の箱根 初夏のしとど」のフレーズとともに、今年も「しとどつくし」の透き通るような音色が箱根路を心地よく響かせていく。

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