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上手いスピーチとは

 本日(8/5)の日本経済新聞(夕刊)のコラム【プロムナード】から、『上手いスピーチとは』。講談師の神田茜さんによるエッセイです。

「どうしたら緊張せずに話せるようになるか?」

 これはごく稀にでも人前で話す機会がある人ならば共通に抱えている悩みでしょう。

 話すことを生業とする筆者でさえも、日々このテーマに葛藤しているようです。

 「高座に上がるときには十分準備をして、客は自分よりも話が上手いのだと思って上がることした」とは何とも酷いこじらせようです。

 試行錯誤の末に行き着いたのは、「リラックスして話すよりもお客を畏れてドキドキしながら話すほうが思いは届くのではないか」「緊張したとしても伝えたい内容を一生懸命に話そうとすることで相手の心に訴えるのではないか」「むしろ上手く話そうとしないほうがわかってもらえるのではないか」という結論。

 私も社内外で人前で話す機会が多く、日々怖れと緊張、自己嫌悪の連続ですが、プロの噺家さんでさえそうなのだ、と少し安心しました。

 しかしそれは「上手いスピーチとは何か」に対する答ではありません。

 一体、「上手いスピーチ」とは何なのでしょうか?

 一つは「話術が巧い」というもの。

 同じことを話しても、より面白く盛り上げて話せるスキルで、話の流れや言葉のチョイス、ちょっとした"間"による違いです。

 話す順番や使う言葉によって理解し易い状態で耳から入ってくることに加え、面白い分だけ引き込まれますから集中が増して印象に残ります。

 スピーチはテクニックじゃない、という正論はありますが、少しでも理解し易い形でお届けするのが聞き手へのマナーですから、上手い(巧い)方がいいに決まっています。

 では、聞き手にとってベストな順序、ベストなボキャブラリー、ベストな"間"で話すには?

 それは、スピーチの前にどれだけ聞き手に思いをはせられるか。言わば、スピーチ前にどれだけ聞き手と"対話"ができるかではないでしょうか。

 自分が話したことを相手はどう受け取り、どんな反応をするか、そこに全力で想像力をはたらかせて何度も原稿を書き直す。

 書き直した原稿が100点になることはありませんが、この準備と事後の反省は、確実に話す技術を高めてくれるのではないでしょうか。

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