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音楽教室 vs JASRAC 控訴審判決 雑感

本日、知財高裁において、ヤマハ音楽振興会などの音楽教室事業者がJASRAC(日本音楽著作権協会)を相手に起こした裁判の控訴審判決がありました。

「生徒の演奏」について著作権使用料の徴収が認められなかったという点からJASRACが部分的に敗訴したことを伝える報道が目立ちます。しかし、「先生の演奏」について徴収が認められたという点については地裁判決と変わっておらず、音楽教室側に著作権使用料の支払い義務があるという結論は維持されています。

じつは、2018年8月に上梓した『こうして知財は炎上する』(NHK出版新書)において「音楽教室 vs JASRAC」について取り上げています。

その中で、私は次のようなことを書いています。

たしかに、例えば発表会当日はきちんとした演奏を披露することになるから、「直接聞かせることを目的」としている。だが、それに向けた練習行為はどうであろうか? 例えば、筆者のように下手な生徒は同じ部分を何度も繰り返すことが多くなる。先生の側も生徒の演奏の完成度を上げるために、生徒が特に苦手とする部分に特化して演奏することになる。本番に向けての練習にもJASRACの許諾が必要というのは、感覚的には腑(ふ)に落ちないところもある。(『こうして知財は炎上する』(NHK出版新書)p.45, 46)

私自身の演奏の稚拙さについても触れたわけですが、今回の知財高裁の判決文を見ると、演奏が上手か下手かはどうやら無関係のようです。

また、音楽教室においては、生徒の演奏は、教師の指導を仰ぐために専ら教師に向けてされているものであり、他の生徒に向けてされているとはいえないから、当該演奏をする生徒は他の生徒に「聞かせる目的」で演奏しているのではないというべきであるし、自らに「聞かせる目的」のものともいえないことは明らかである(自らに聞かせるためであれば、ことさら音楽教室で演奏する必要はない。)。

知財高裁は「当該演奏をする生徒は他の生徒に『聞かせる目的』で演奏しているのではない」と断言していますが、アンサンブル(2人以上の同時演奏)の場合、他の生徒の演奏に耳を傾けることは極めて重要です。もしかすると、今回関わった裁判官の中に楽器の演奏経験のある人がいないのかもしれません。

そのほか、判決文では、「生徒は、もっぱら自らの演奏技術等の向上のために任意かつ自主的に演奏を行っており、…(略)… 生徒がした演奏の主体は、生徒であるというべきである」との理由により、演奏主体が音楽教室側であるとする、いわゆる「カラオケ法理」が適用されないとも述べています。おそらく両者とも上告するものと思われますが、最高裁がどのように判断するのか大変気になります。


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