事故由来放射性物質で汚染された廃棄物の再生利用が行われていた

(※以下、現時点では不確実なところも多いため、少しずつアップデートしていきます)
また、問題をわかりやすくまとめたスライドを作りました。こちらからどうぞ。

放射性物質で汚染されている廃棄物がリサイクルされていることが判明

東電福島原発事故によって大量の放射性物質が環境中に放出されました。その結果、発電所敷地外も放射性物質によって汚染が広がりました。

このたび吉田千亜氏の記事(「閉ざされた土地 第1回 出回っていた放射性廃棄物」『世界』2022年4月号掲載)により「対策地域内廃棄物」が、不適切なやり方で大量に再生利用されている可能性があることがわかりました。詳しくは、ぜひ吉田氏の記事を読んでください。

さて、これまでも、会計検査院報告書で対策地域内廃棄物が大量に再生利用(リサイクル)されていることは書かれていました。

以下の図は、会計検査院報告書の表からトン表示されているもののみをグラフにしたものです。コンクリートがら、金属くずをはじめ家電類も再生利用されていることがわかります。(家電類は別の年度では「トン」表示ではなく「台」で記載されています。このグラフには書かれていません)

対策地域内廃棄物の再生利用量(トン)
出所:会計検査院(2021)「福島第一原子力発電所事故に伴い放射性物質に汚染された 廃棄物及び除去土壌等の処理状況等に関する会計検査の結果 について」5月、83ページよりトン表記されているもののみをグラフ化

しかし、再生利用がどのような放射能濃度の基準で行われているのか、明確には記述されていませんでした。

8000Bq/kg以下のものが「有価物」?

吉田千亜氏の取材によれば次のような扱いになっています。

  1. 福島地方環境事務所によれば、「帰還困難区域」以外の解除された地域の廃棄物のうち、8000Bq/kg以下のものが「有価物」として全国で再資源化ルートに乗っている

  2. 業者が表面放射線量0.3μSv/hや0.5μSv/hといった自主基準をつくって再資源化している。

つまり、8000Bq/kg以下であれば再生利用(リサイクル)して良いことになっています。また、環境省が認可や確認をしていないようなのです。

年間10μSv以下の被ばく量に抑えることが本来の基準

では、放射性物質で汚染されたモノのリサイクルはどのように規制されてきたのでしょうか。

もともと、原発などからでてくる放射性廃棄物については、再利用してよい基準(クリアランス基準)として、年間10μSv(10μSv/年)の被ばく量が用いられてきました。これは、現在も全国をカバーする規制です。

環境省は、この原子炉等規制法に基づく規制に準ずる形で、2011年6月23日に「福島県内の災害廃棄物の処理の方針」を定めています。

環境省(2011)「福島県内の災害廃棄物の処理の方針」6月23日

つまり、

  1. 市場で流通するものはクリアランスレベルの基準(10μSv/年)以下になるよう、放射性物質濃度を管理する。

  2. クリアランスレベルを超える場合は、被ばく線量が10μSv/年以下になるよう適切に管理された状態で利用する。

ということです。

簡単に言えば、「福島県内の災害廃棄物の処理の方針」では、クリアランスレベルの基準以下になるよう、放射能濃度を管理するか、被ばく線量が10μSv/年になるよう管理された状態で利用するか、のいずれかでした。

また、2013年10月25日に国が決定した「福島県内における公共工事における建設副産物の再利用等に関する当面の取扱いに関する基本的考え方」でも以下のように書かれています。
https://www.env.go.jp/jishin/attach/fukushima_byproduct131025a.pdf

  1. 建設副産物の再利用等

    1. 放射線量が同等又はそれより高い区域において行うことを基本とする。また、帰還困難区域・居住制限区域から発生した建設副産物の再利用等は屋外の公共工事に限定する、等の対策をとる。

    2. 金属類及び建設発生木材については、再利用して生産された製品は、市場に流通する前にクリアランスレベルの基準(10μSv/年)以下になるように、放射性物質の濃度が適切に管理されていることを確認する。(→全国的に流通することが想定される資材であるため

  2. 発生した区域より放射線量が低い区域での再利用等

    1. 放射能濃度が100ベクレル/kg(IAEAの提唱する規制免除レベル)以下であれば、工事制約のない使用が可能。

    2. 当面の間、福島県浜通り及び中通りにおける道路、河川等の屋外の公共工事に使用する再生資源化資材は、表面線量率が0.23μSv/時以下である場合は使用可能。

    3. 利用者・周辺住民の追加被ばく線量が10μSv/年であるように管理された状態で屋外において遮蔽効果を有する資材を用いて利用する場合は使用可能。例えば、下層路盤材として利用する場合は、30センチ以上の覆土を行う場合、3000Bq/kg以下であることが必要。

ここでは、福島県浜通り及び中通りを例外としているという問題点はあるものの、おおよそ「福島県内の災害廃棄物の処理の方針」にそった方針になっていると言えます。

また、環境省は、2012年に「100Bq/kgと8,000Bq/kgの二つの基準の違いについて」という文書を作成しています。

  1. 原子炉等規制法に基づくクリアランス基準(100Bq/kg)について、「廃棄物を安全に再利用できる基準です。」

  2. 放射性物質汚染対処特措法に基づく指定基準(8000Bq/kg)について、「廃棄物を安全に処理するための基準です。」

https://www.env.go.jp/jishin/attach/waste_100-8000.pdf

これ自体も、クリアアランス基準との関係では問題のある文書ですが、そうであっても100Bq/kgが「廃棄物を安全に再利用できる基準」とはしていました。

本来の基準はどこに行った?

いったい、これらの文言と、今回明らかになった現実(8000Bq/kg以下であれば再利用)とはどのような整合性があるのでしょうか。

以上のことから、今回、「福島県内の災害廃棄物の処理の方針」が、現実には守られていなかった可能性が高く、従来のクリアランス基準を満たさないものが全国的に再利用されている可能性が高いように思われます。これまでの説明とも矛盾があります。

現時点で、下記のような疑問や問題点が指摘できます。

  1. 現実に、再生利用の基準を8000Bq/kg以下にして運用しているのか。この基準で再生利用されている資材は何か。

  2. 8000Bq/kg以下であれば、クリアランスレベルの基準を下回る被ばく量となるのか。どのような検討を経て、どのような決定を行い、再生利用の基準を8000Bq/kg以下としたのか。

  3. 環境省は、クリアランスレベルの基準以下になるよう、再生資材の放射性物質濃度をどのように管理しているのか。環境省は、再生利用に関して認可・確認を行い、その記録をとっているのか。

  4. 具体的に、どのような資材が、どのような流通ルートを経て、どこでどのような用途で再生利用されているのか。環境省は詳細を把握し、管理しているのか。

  5. 全国に適用されている原子炉等規制法と、福島原発事故の汚染地域のみに適用されている特別措置法との間で、規制に大きな格差があるのではないか。国民の安全や健康に関して、福島原発時事故のみ別の基準や手続きでよいのか。

  6. クリアランス制度とは全く異なる手続きでリサイクルすることを国民に十分に知らせず、かつ、会計検査院が報告書をまとめるまで、何をどれだけどのように再生利用しているのか、国民に積極的に知らせなかったことは行政として適切といえるのか。

なお、原子炉等規制法に基づくクリアランス制度においては、以下の図のように国によって2段階にわたって厳格な品質保証体制がとられています。つまり、1)国による「測定・評価方法の認可」、2)国による「測定・評価結果の確認」(確認証の交付)です。
今回の、対策地域内廃棄物ではこのような認可や、測定・評価結果の確認を国・環境省は行っていません

原子力規制委員会Webページより(https://www.nsr.go.jp/activity/regulation/nuclearfuel/haiki4.html


根本問題は二重基準(ダブルスタンダード)

今回の問題は、放射性物質汚染対処特措法に内在する二重基準(ダブルスタンダード)があります。

  1. 根底には、原子炉等規制法に基づく規制放射性物質汚染対処特措法(福島原発事故の放射能汚染にのみ適用に基づく規制との間の格差、二重基準(ダブルスタンダード)があります。今回の場合は、対策地域内廃棄物の再生利用可能になる基準です。仮に、原子炉等規制法に基づけば100Bq/kg以下なければならないものが、放射性物質汚染対処特措法では8000Bq/kg以下であれば再生利用可能になってしまっているようです。

  2. 規制者や手続きも二重になっています。

    1. 原子炉等規制法は、福島原発事故の反省を活かして、規制者(原子力規制委員会)と事業者・実施者(電力会社など)が分かれており、公開の場で規制が行われています。また、国による認可や確認などの手続きが厳格にとられています。

    2. 放射性物質対処特措法では、原子力規制委員会が規制者ではありません。ですが、扱うものは放射性物質なので何らかの規制が必要です。特措法では誰・何が規制者の役割を果たすのか判然としません。どうやら環境省がその役割を半ば果たしているようです。しかしながら、他方で環境省は他方で除染等を担当しています。つまり、いわば規制者と実施主体が一体となったような状態になっています。しかも、再生利用については業者に丸投げして、原子炉等規制法のような認可や確認の手続きも行っていないようです。会計検査院報告書で初めてわかるような事実も多々あり、情報公開も不十分です。

  3. 放射性物質対処特措法の中身も二重になっています。

    1. 放射性物質で汚染された「対策地域内廃棄物」は国民には何ら知らせることなく8000Bq/kg以下で再生利用(リサイクル)されてしまっています。「対策地域内廃棄物」の再生利用に関する「手引き」は存在しないか、わかりやすい形で公表されていないか、のいずれかの状態です。

    2. 除去土壌(除染で剥ぎ取られた汚染された土壌のこと)については、福島県内の住民の方々からの反対もあり、実証事業(実験のようなもの)を限定的に行っているにすぎません。また、2020年3月に、環境省令や「再生利用の手引き」を定めようとしましたが、環境省は省令化を行いませんでした。「再生利用の手引き」は問題が多々含まれていましたが、少なくとも「手引き」を作る動きを示し、ある程度「管理」を行うとしていました。また、環境省は、100ベクレル/kgを「廃棄物を安全に再利用できる基準」であると、除去土壌の再生利用について説明する際に述べていました。

福島原発事故から11年が経過しようとしています。事故直後に大慌てで作った汚染対策を見直すべきときに来ています。今も日本全国をカバーする原子炉等規制法の体系、ないしはそれと矛盾しない政策が必要です。原発事故ででてきた放射性物質も、通常の原子力施設からでてくる放射性物質も、国民の健康や安全にとって同じものなのですから。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?