日本で処分できない放射性廃棄物の輸出のための輸出規制見直し

大島堅一

※この記事は、事実関係がわかるたびに、少しずつ更新しています。

※以下の情報をパクるのはかまわないのですが、もし何かの記事等を書く場合に参考にした場合は出典を明記していただくか、当方までご連絡(取材)いただきたいと思います。政策情報を整理したものであっても、研究者にとっては重要な仕事ですし業績です。

「エネルギー基本計画」素案に含まれた新たな文言

ある方からのメールで、日本の新しい「エネルギー基本計画」の素案に、日本国内で処分困難な放射性廃棄物の海外輸出にむけた規制見直しの方針が含まれていることがわかりました。

該当部分を抜粋します。

「安全かつ円滑に廃止措置を進めていく上では、廃棄物の処理の最適化も必要である。海外事業者の豊富な実績や技術を国内作業に活かすことが重要であり、国内において適切かつ合理的な方法による処理が困難な大型機器については、海外事業者への委託処理を通じ、輸送も含む運用の実績を積むことが可能となるよう、必要な輸出規制の見直しを進める。」

エネルギー基本計画(素案)https://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/2021/048/048_012.pdf p.65

当該文章の前段に、福島第一原発の廃炉と、事故をおこしていない原子力発電所の廃炉、および、廃炉から生じる放射性廃棄物の処分に関する記述があります。したがって、文脈からすれば、福島第一原子力発電所の事故処理から生じる放射性廃棄物も想定した輸出規制の見直しのようにすら解釈できます。

現行の規制においては、放射性廃棄物の輸出は原則的にできないことになっています。今回のように、放射性廃棄物に関連して、輸出規制の見直しをすることはこれまで検討されてこなかったと思います。

しかも、今回は、国内で処理が困難な大型機器、とあからさまに書かれており重大です。

(追記)2021年8月10日の梶山経産大臣の記者会見で、新聞記者の質問に答えて、これまで輸出禁止を原則としてきたが、相手国の同意があるというのは例外にあたり、一定の条件があれば輸出可能という見解が示されました。今後パブリックコメントを経て告示改正を行う方針のようです。

2021年8月10日 梶山大臣記者会見(Youtube)

(※梶山大臣の説明は通り一遍です。ここでも数多くの論点があります。たとえば、相手国が同意すれば良いのか、という問題があります。つまり相手国が同意し、安全に管理するとしていれば認められるのだという解釈になります。そうなると輸出できる品目がさらに広がる可能性が否定できません。経産省の「告示」改正で済む問題ではないでしょう。)

問題はいくつかあります。

第1に、日本国内で処分できない廃棄物を、海外の事業者に委託して輸送(輸出)することの倫理的、国際的問題です。

仮に、福島第一原発からの放射性廃棄物が除外されなければ、問題は一層大きくなります。福島第一原発から生じる放射性廃棄物の量は膨大です。その物量は、通常の原発を1基廃炉する場合に生じる放射性廃棄物の1000倍以上に達します。いったん、海外委託を可能にすれば、将来、日本から膨大な放射性廃棄物が輸出されることにつながりかねません。

第2に、放射性廃棄物の輸出を禁じてきた規制を180度転換することの問題です。日本は、使用済核燃料管理及び放射性廃棄物管理の安全に関する条約を批准しています。そのため、外為法に基づき原則輸出はできないことになっています。

どのようなものが規制の対象になっているかは、経産省の「告示」で詳細に定められています。経産省は、この「告示」の内容を変更してしまおうと考えているようです。

今回の内容は国際的な問題に発展する可能性が高いものですが、「告示」なので、経産省だけで判断ができてしまいます。

第3に、これまでの方針を覆す重大事項であるにもかかわらず、政府の審議会ではまともに審議されていません。また、国会でも議論されていません。

念のため、国会議事録のデータベースで、「外為法 放射性廃棄物」や「輸出規制 放射性廃棄物」と検索しても、発見できませんでした。したがって、全く国会で、報告も議論もされていないものと考えられます。

NUMOは、放射性廃棄物処分に関し、「日本で発生した放射性廃棄物は、日本国内で処分するということが、原子力先進国としての責務であると考えています。なお、日本も締結している国際条約「使用済燃料管理及び放射性廃棄物管理の安全に関する条約」でも、原則発生した国で処分されるべき旨が規定されています。」とホームページで国民向けに説明しています。

第4に、炉規法や原子力規制委員会設置法にある「環境の保全」との整合性です(福島原発事故後「環境の保全」が付け加わりました)。どんなに必要だからといって、今回やろうとしていることは、廃棄物(放射性廃棄物)の海外輸出に関する事項です。これは、通常の廃棄物と同様、環境行政という観点から詳しく検討され、議論を尽くさなければならない事項です。「国内で処理できない」という電力会社の言い分だけで、経産省が外為法の告示を改正して済ませるような問題ではありません。

放射性廃棄物に関する輸出規制の見直しは、国際的問題に発展する可能性すらあると考えられます。このような内容を、ほとんどまともな議論なく、エネルギー基本計画に忍ばせておくことは許されません。この文章は、閣議決定される予定の「エネルギー基本計画」から削除すべきです。

※急いで書きましたので乱文ご容赦ください。

追記1

総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会第22回原子力小委員会(2021年3月22日)で、資源エネルギー庁からごく簡単に説明がされていました。議事録の27ページで書かれています。

「それから4ページ目ですけれども、円滑な廃止措置を進める上での課題ということで、廃止措置によって発生する蒸気発生器ですとか、給水加熱器といった非常に大型の金属というものにつ きましては、これは非常に炉内でスペースを占有していまして、円滑な廃止措置を進める上での ボトルネックとなっております。現在、国内ではこの専用の施設とか設備というものがなく、処理が困難となっているという状況でございます。
他方、諸外国においては、除染や溶融などの処理によるリサイクルを行うというビジネスが確立されておりますので、中長期的には、国内でしっかりとこういうふうな設備を導入していくということを検討するということが大事だと思いますが、他方で、足元の廃止措置自体は円滑に進めていかなければいけないという観点から、海外事業者への処理委託ということを通じて、輸送含めた運用の実績を積むということが重要ではないかと考えております。

5ページにございますように、ただ、こういうことをやろうとするときに、外為法に基づく輸出管理の運用において、放射性廃棄物の輸出というのは原則として承認しないというふうにされております。そのため、この実現のためには輸出規制の見直しということが必要になると思っております。
基本的には、この原則自体はしっかりと維持した上で、以下のような輸出承認基準案のとおり、条約に基づく相手国への通報でありますとか、同意に加えまして、まず品目をしっかりと限定した上で、相手国できちんと再利用が行われる、それから安全性についてその国の規制体系にしっかりと遵守する事業者であると、こういったことを確認した上で放射性廃棄物の輸出というものを例外的に認めていくと、こういった見直しというのを進めていきたいと考えております。」

ここで参照されている資料は資料8です。この1ページだけであり、議事録を確認しても、委員からの質問もなく、議論もされていません。この説明だけでは、何をもって「再生利用されることが確実である」とするのか、「安全かつ適切に処理されることが確実である」と誰が認めるのか、原子力規制委員会がこれを行うのか、他国での最終処分に道を開きかねないのではないか、といった疑問が、少し考えただけでもでてきます。

スクリーンショット 2021-08-06 15.11.30

さらに、今後福島第一原発からも、同様の放射性廃棄物が大量にでる可能性があります。経産省の「告示」を変えるだけで、福島第一原発らの放射性廃棄物を海外輸出できるようにする可能性があるのではないでしょうか。

少なくとも、放射性廃棄物の海外輸出の道を開くものとしてとらえることができます。ほとんど議論されないまま、「エネルギー基本計画」に含めるべきではありません。

追記2

「はんげんぱつ新聞」のコラムに、この件について、参考になる指摘があります。

追記3

海外の事業者に委託するという考えは、2019年から出ていました。

具体的には、資源エネルギー庁(2019)「原子力発電所の解体(一般廃炉)の 今後の方向性について」4月23日(総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 原子力小委員会第20回会合資料6)で、「国と事業者が今後検討する取組の具体例」の一つとして、「処理実績が乏しい大型金属などについて、海外の事業者に処理を 委託する。」と書かれています。

実際、議事録 p.26をみると、「また、処理実績が乏しい大型金属などにつ いて、海外の事業者に処理を委託するということも考えられると思います。」と資源エネルギー庁が説明しています。しかし、各委員からは質問がなく、議論もされていません。

追記4

今回の件は、電力会社と経産大臣の意見交換でもでてきています。

第5回使用済燃料対策推進協議会及び梶山経済産業大臣と電力各社との意見交換会(2020年7月2日)で、電気事業連合会 池辺会長(九州電力社長)が、解体廃棄物について、処分場確保に努めると共に、大型金属の海外処理やク リアランス制度の定着に向けて必要な対応をとる。」(議事要旨p.6)と発言しています。

議事録が公開されていない(議事要旨しかない)ので、どのようなやりとりがあったのか、詳しくはわかりませんが、電力会社側が要望したのかもしれません。

https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/shiyozumi_nenryo/005.html

こうやって、事業者の都合で、放射性廃棄物の海外輸出を進めようとしているようです。事業者は自らが努力すべきではないかと思われます。

また、市民との間でも、このような意見交換会を実施すべきです。事業者とだけ意見交換会を行っているのは、何故でしょうか。

報道

1)朝日新聞デジタルがこの件について書きました。「経産省、放射性廃棄物の輸出を検討 廃炉の大型機器想定 新田哲史2021年8月6日 19時40分」

ただ、詳しく説明された上で審議されたかのように、この記事を読む限り誤解する読者もいるでしょう。そんな議論は全くされていませんし、そもそも議論できる時間が十分にはありませんでした。あたかも、詳しく説明され、委員が承諾したように書くのはまずいでしょう。しかも、詳しい案なんて議論されていませんよ。

2)毎日新聞朝刊 2021年8月7日「廃炉廃棄物、輸出容認へ 年内にも基準案 経産省」

https://mainichi.jp/articles/20210807/ddm/012/010/141000c

こちらの記事は、朝日新聞より、課題がわかる内容です。

基準案は年内に作成、パブコメを経て、外為法の運用通達改正をするそうです。こうやって「例外」をもうけて、国内で処理できない(と勝手に電力会社は言ってるわけですが)放射性廃棄物を外国に持ち出すということをしていくのでしょうか。まさに「抜け穴」です。

どんなに必要だからといって、これは廃棄物の輸出(今回は放射性廃棄物の輸出)ですから、経産省内でパパッと案つくって、パブコメして、ハイ終わり!では済みませんよ。

いったん、「抜け穴」を作ると、この穴は大きくなっていくのがこれまでの原子力政策です。経産省の通達だけでこれをやれるのでしょうか。環境省や原子力規制委員会(福島原発事故後、「環境の保全」という文言が、原子炉等規制法、原子力規制委員会設置法に入っています)の役割はどうなるのでしょうか。

3)日本経済新聞 2021年8月7日「放射性廃棄物を国外処分、原発の大型金属 経産省方針」

ほとんど議論されていないということが指摘されていました。確かにそのとおりなのです。仮にどうしても必要だとしても、本当にそうなのかどうかは今のところ事業者以外わかりません。本件は放射性廃棄物の輸出に関する問題なので、環境保全の観点から十分に議論を深める必要があります。素通りは許されません。

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大島堅一
エネルギー政策の研究をしています。 思いついたことを書いていきます。考えは深まりますので、記事は適宜修正されます。 高崎経済大学経済学部→立命館大学国際関係学部→龍谷大学政策学部(今ココ)の教授。日本環境会議事務局長→代表理事、原子力市民委員会座長など。