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キング・クルール インタビュー Part 1

翌年以降の活躍が大いに期待されるアーティストを選出する「BBC Sound Of」の「Sound Of 2013」に選ばれたのが18歳の時。19歳で発表したファーストアルバム『6 Feet Beneath The Moon』は耳の早いリスナーの間で話題となり、「神童」とも称されたキング・クルールことアーチー・マーシャル。南ロンドンに生まれ、エイミー・ワインハウスやアデルを輩出したパフォーマンス・アート校「ザ・ブリット・スクール」に通い、10代半ばでギターとサンプラーによる音楽制作を開始した彼の音楽は、50年代のロックンロール、ソウル、ジャズ、ポストパンク、ネオアコ、ヒップホップなどの要素を内包しつつもステレオタイプに陥らないユニークなものだ。加えて「精神性としてのパンク」とでもいうべき独特な歌詞の世界も特徴的で、他の追随を許さないオリジナリティである。

本記事と次回の2回にわたってお届けするキング・クルールのインタビュー、前篇ではセカンドアルバム『The Ooz』(2017)との比較や『Man Alive!』の楽曲制作開始時期、またレコーディングの際のアプローチなど、興味深い話題が展開されている。

なお、本インタビューは、ニューアルバム『Man Alive!』のリリース(2020年2月21日)に先駆けて行われたもので、日本の発売元であるBeat Recordsさんから提供いただいたテキストを全文掲載するものである。質問制作と翻訳は坂本麻里子さんが担当された(私はこのイントロダクション執筆と編集を受け持っている)。全文公開は本邦初となる貴重なインタビューを、ニューアルバムともどもお楽しみいただけたら幸いである。
(PHOTO by Charlotte Patmore)


自分自身になんのプレッシャーもかけてないからさ

●19曲入りで1時間7分の大作だった『The Ooz』に対して新作『Man Alive!』は比較的「ノーマルな」尺のアルバムですね。
––––うん。
●これはやはり、ある意味とりとめなく広がる、スコープの大きかった前作の反動で「今回はもっとコンパクトで凝縮されたアルバムにしよう」という思いゆえ?
––––ああ、その通り、うん。俺はだからまあ……『The Ooz』にしても、もっとコンパクトなものにしたかったんだけどね。ところが、いざ出来上がってみたら……
●(苦笑)
––––(苦笑)……ああいう内容になっていたっていう。変化したわけ。だから、うん、今回の作品は……実は、本来はもうちょっと長いアルバムだったんだ。ただ、何曲か落として、それでこうなったんだ。
●レコーディングしたもののアルバムに入らなかった曲も他にある、と。
––––そういうこと。
●『The Ooz』は妥協無しというか、あなたの当時をすべて詰め込んで、世界に対して「これが自分だ」と提示するようなところもあったのかなと感じましたが、今回はもうちょっと自己コントロールしている、ということ?
––––そうね、まあ俺の見方としては、こう捉えていたんだよ。あれは……「何かが出て来るイメージ」だったというか、だから、自分の頭の中はスパゲッティみたいだな、と(※「ooz」は何かがにじみ出てくる/にょろにょろと這い出してくる様を表現する動詞)。
●文字通りにじみ出てくるというか、あなたの潜在意識や内面のモノローグ、流動的なマインドスケープをフィルターを通さずにドキュメントしたアルバムだったとも思いますが、新作『Man Alive!』でもその内省的な面は変わっていないと思いますか?
––––んー……たぶんそうなんじゃないの? 自分じゃ分からないけどね、正直…………ただ、意識して作ったものではないな。
●なるほど。感じたことだったり、ふっと浮かんだ記憶や、見た夢を元にそれを曲にしていく、という感じ?
––––うん、ま、そういうところ。だから、俺は自分自身になんのプレッシャーもかけてないからさ。とにかく、自分の書きたいやり方で書いていくだけだし。
●新作向けの曲作りやプリプロはいつ頃から始めましたか?
––––何曲かは、2016年にまでさかのぼる。うん、たとえば、〝Stoned Again〟は2016年に書いた曲だし……っていうか、俺たちは新作収録曲をもうライヴでプレイしてきた、何曲かは『The Ooz』時のツアーでも演奏していてね。それとか、サウンドチェックの際にプレイしてみたり……だから、俺たちは前のツアー中から、『Man Alive!』向けのコンポジションの多くを練習していたっていう。そんなわけで、楽曲は結構早いうちに浮かんできていたんだけど、そこからこう、収録曲のいくつかはもっと後になってできて。〝Supermarche〟に……それとか〝The Dream〟なんかはその頃よりも後に書いたね。
●ミュージシャンに取材すると、よく「ツアー中は疲れるし曲を書けない」という答えを返されるんですが、あなたはツアー中も曲を書けるタイプ?
––––うん。まあ単に、自分はあの当時すごくインスピレーションが湧いていたってことじゃないかと思うけど? だからなんというか、人生のあの時点で、俺は「インスピレーションを感じて自分の中に創作意欲が湧いたら、それを活用しなくちゃいけない」って点に気づいた、みたいな。そうだな、ほんと、そういうことだと思う。とにかく……自分にそういうところがあるのを自覚したし、ギターを弾いていてもすごくインスパイアされた。そんなわけで、うん、そんな風に霊感が湧いていた状態を最大限活用しようとしたっていう。
●ツアー中にビートやリフのアイディアが浮かんだら、たとえばiPhoneに録音して、そこから発展させていく、みたいな?
––––まあそんなとこ。それとか、PCを持ち歩いてるから、それでデモだとかを作ったり。

自分の内面の状態/環境について書いている


●新作アルバムであなたが新たにやろうとしたことは、何かありますか? これまで挑戦したことがなくて今回やったことと言えば何でしょう。
––––そうだなあ……んー、特に「これ」といったことはないんじゃないかな? っていうか、新しいことをやりたいっていうのは当然、どっちにせよ自分が自然に感じることであって、何も「今回はこれをやるぞ」みたいに構えて始めることじゃないんだ、ほんと。ただ、自然に生じた変化というのはもちろんあって。というのも、俺は生きていく中で得た自分の経験から曲を書くし、自分の周辺で起きていることとか、自分の内面の状態/環境について書いている。ということは、当然変化するものだろうと俺は思うけどね。だって、物事は変化していくもんだろ。
●なるほど。人間としても、ミュージシャンとしても、生きていく中で常に変化していくわけですしね。
––––そう。物事に対する見方もそうやって変わっていくっていう。
●新作レコーディングでは、イグナシオ・サルヴァドーレズのサックスをはじめ一部をバック・バンドが担当したのを除き、あなたがほとんどの楽器を演奏しているようです。ちゃんとバンドがいるのに、なぜ自演したんでしょう?
––––いや、バンドとはちょっと一緒にレコーディングしたし(笑)。だけど、うん、大半は自分で演奏したってことになるんだろうな……イグナシオ・サルヴァドーレズ、彼にはこのレコードで大いに助けられたけどね。彼からは、アルバムを通してインスピレーションをもらいっぱなしだったよ。
●サクソフォンを勉強して演奏できるようになりたいですか?
––––ん〜〜、フム。そうね、自分で演奏できるようになれたらいいだろうなとは思うよ。ただ……(チッと舌打ちして考え込んでいる様子)……どうだろう? 今のこの時点では、「どうしても吹けるようになりたい」っていう、強い欲はないな。ただ、クラリネットを習おうとしたことはあったんだよ。でも、こう……自分にはあまり向いていなくて、上手に弾けなかったっていう。
●あなたのライヴ・パフォーマンスはレコーディング音源以上に広がりがあって素晴らしく、音源を青写真にそこから変化していくものだと思います。録音音源とライヴとの違いをどう捉えていますか?
––––まあ、俺が好きなのは……だから、俺たちがライヴでプレイすると、そこにカオスがたくさん生じるところが大好きなんだよな。分かるだろ? 今のバンドとはかれこれ10年近く一緒にプレイしてきたし……少なくとも、バンドの核になる連中とはそれくらい長くやってきた。で、思うに、合図に合わせて演奏を変える、そういう関係性がバンドの中で成り立っているっていう。要するに、俺たちはお互いのキューを頼りに演奏しているわけ。だから複雑な構成をあれこれ組まなくても、演奏中に出るキューを頼りに、「ここで曲調を変える」等の変化が分かるっていう。それに俺はカオスは相当好きだしね。「いつどこで何もかもがおじゃんになるか分からない、予断を許さない」みたいな要素は好きだし、それに……そういう演奏の仕方だと、俺たち自身も緊張感を保てるんじゃないかな。ステージ上でのバンド内のコミュニケーションがすごく重要になってくるわけだから。それに対してコンポジションっていうのは、それをいったんレコーディングしてしまうと、そうだなぁ……音源として残ったものに対して、再び自らを掻き立てエキサイトさせる必要があるわけだよね。だからライヴで演奏する行為というのは、レコード作品やその音楽に俺自身が立ち返るのにもってこいの、パーフェクトな方法なんだよ。
●ということは、あなたのライヴへのアプローチはジャズ・ミュージシャンやジェイムズ・ブラウンに近そうですね? 意図的にお手本にしているわけじゃないでしょうが、ジャズやファンクのインプロが多くてフリーなスタイルのライヴに近づいている気がしますが。
––––あ〜〜ん、うん、そうなのかも?……ただ、特に「これ」といった具合に、特定のバンドにインスピレーションを受けてそういうことをやろうとしているわけじゃないけどね。ただ単に、自分からすればそうするのがごく当たり前のことだと思えた、というだけだし。いやだから、俺は全然……っていうかそんなに……あー、なんだったっけな、あの言葉は(チッと舌打ちしながら思い出そうとする)……だから、俺の持ってる音楽的な知識っていうのは、こう、伝統的/常識的な考え方からすれば言えば良くない、偏ったものなんだよ。そんなわけで、俺にとってはあれ以外にライヴのやりようがない、それだけのことであって。
●へえ。でも、あなたの音楽的な知識は幅広くてとても豊かだなといつも思ってきましたけどね。あなたと同年代の若者に較べたらはるかに面白いと思うし、別に悪く言うつもりはありませんが、あなたの世代のイギリスの若者は普通だったらエド・シーランあたりを聴いているでしょうし(笑)。
––––フフッ!(苦笑)

もっと乾いた音にしたかった


●あなたの地元であるサウスロンドンのスタジオだけではなく、新作は英北西部ストックポートにあるEVEスタジオでもレコーディングしたそうですね。
––––うん、何曲かはあそこで録った。
●EVEのウェブサイトを見たら、ヴィンテージ機材を数多く揃えた面白そうなスタジオだなと思いましたが。
––––んー、まあ、今稼働中のスタジオって、どこもそんな感じだけど。ただ、うん、あそこはめちゃ良かったよ。住み込み型のスタジオだから、1週間あそこで寝起きして、一晩中作業に費やすこともできたし。
●古いシンセや録音機材、制作環境の変化は作品やヴァイブに何か影響をもたらしたと思いますか?
––––うん……でもまあ、俺はいつだって旧型のシンセやアナログ機材、モジュラー・シンセサイザーなんかは使ってきたしね。ただ、あのスタジオに入った時点ではレコーディングはかなり進んだ後期段階にあったから、特にこう……要するに、見たことのない機材に出くわしたからと言って、単にそれを使いたいがために既にレコーディングしたものにあれこれ付け加えたくはなかったっていう。
●前作に較べると、新作はサウンドのどろっとした水浸しな質感が薄れましたし、ジャズ系な楽曲やパンクなギター曲もアクセント的に配置されていると感じました。今回のアルバムを作る際にあなたがイメージしたのはどんなサウンドでしたか?
––––もっと乾いた音にしたかった、それはかなり意識してた。ギター・サウンドにせよ自分のヴォーカルにせよ、リヴァーブやエコーという点でもっとドライなものにしたかった。それから、ノイズも常にたくさん使っている。ホワイト・ノイズだのフィールド・レコーディングした音源、それらを用いてストーリーを語ろうとしているんだ。だから……うん、そこらへんの要素だろうね。俺はいつだって変化し、進化しようとしているんだよ。
●今フィールド・レコーディングとおっしゃいましたが、1曲目のタイトルは〝Cellular〟ですし、留守電メッセージや電話のコール音もアルバムに使われています。そうやって電話が何度か登場するのはなぜ?
––––んー、それは思うに、あの頃の自分は誰かに電話をかけようとかなり時間を費やしているのに、でも相手は電話をとってくれない、という状態が多かったからだろうな。
●(笑)。あなたの実人生の一部だ、と。
––––フフッ(苦笑)。そういうこと。
Part 2に続く)


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label: XL Recordings / Beat Records
artist: King Krule
title: Man Alive!
release: 2020/02/21 FRI ON SALE
XL1009CDJP ¥2,200+tax
国内盤特典 ボーナストラック4曲追加収録 / 歌詞対訳・解説書封入

Tracklisting
01. Cellular
02. Supermarché
03. Stoned Again
04. Comet Face
05. The Dream
06. Perfecto Miserable
07. Alone, Omen 3
08. Slinky
09. Airport Antenatal Airplane
10. (Don’t Let The Dragon) Draag On
11. Theme For The Cross
12. Underclass
13. Energy Fleets
14. Please Complete Thee
*Bonus Tracks for Japan*
15. Perfecto Miserable (Hey World! Version)
16. Alone, Omen 3 (Hey World! Version)
17. (Don’t Let The Dragon) Draag On (Hey World! Version)
18. Energy Fleets (Hey World! Version)

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