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提案したら怒られた企画4選-暴走プルス・ウルトラの産物。

「企画屋」という肩書きを背負って暮らしている。

昨年までは企画を考えるだけでお金をもらう仕事も結構たくさんあり、「企画書を10本セットで書いて50万もらう」「企業の企画コンサルで毎月5万もらう」みたいな仕事をよくやっていたので、こう名乗っていた。


だけど、最近はそもそもクライアントワークをほとんどやっていない。この有料マガジンだけで食えるようになったから、やる必要がなくなった。(僕は企画を提案するよりも悪口を書いている方が楽しい体質なのだ)

だから「企画屋」という肩書きはもう外してもいいのだけれど、特に何か新しい肩書きを名乗る必要性も感じていないので、惰性でそのまま来ている。幽霊部員ならぬ、「幽霊肩書き」である。


普通、何らかの肩書きを持っている人は、自分の権威性を高めて単価を上げるために、成功したものをアピールする。僕で言うなら、華々しくバズった企画なんかを実績としてたくさん喧伝するのが普通だろう。

だけど前述の通り、僕はもうクライアントワークを頑張って獲得する気持ちがないので、権威性を高める必要がない。「クライアントにこんな価値を提供しました」という話を一生懸命する必要がなく、それどころか「クライアントにこんな風に怒られました」というおもしろ小話すらも気楽に話せる。幽霊肩書きはラクでいい。


暴走プルス・ウルトラ

そういうことで、今日は「提案したら怒られた企画」について書いていこうと思う。

というのも、僕はしょっちゅう怒られてきた。「それはコンプラ的にできません」という言葉を昨年だけで200回くらい言われた気がする。

「意外性のある変な企画」を求められる立場上、コンプラのギリギリを攻めないといけないのだけれど、僕はなぜかクライアントにクビを切られるギリギリを狙ってしまっていた。


プルス・ウルトラ」という言葉がある。もともとは、16世紀にスペイン国王カルロス一世がモットーにした言葉だ。この言葉は、ローマ神話に端を発する。

ローマ神話によれば、ヨーロッパの端であるジブラルタル海峡には「ネク・プルス・ウルトラ(Nec Plus Ultra、この先には何もない)」という警句が刻まれた柱が立っていて、大西洋に漕ぎ出そうとする無謀な航海者を阻んでいたそうだ。実際に史実においても、15世紀の終わりまではジブラルタル海峡より先に何かを発見した航海者はいなかった。

だけど、1492年、無謀にもこの警句を無視して大西洋に漕ぎ出したコロンブスは新大陸を発見し、「ネク・プルス・ウルトラ(この先には何もない)」が間違いだったことを証明した。ここから、大航海時代の本格的な幕開けが訪れる。


カルロス一世の誕生は1500年。コロンブスが新大陸を発見した直後に産声を上げた彼は、大航海時代の象徴とも言うべき人物である。

そんな時代に育ったことが影響したのだろう、カルロス一世は「ネク・プルス・ウルトラ(この先には何もない)」から否定語を取り外した「プルス・ウルトラ(もっと先へ)」をモットーにした。リスクを取り、越えてはいけなかった一線を越えてもっと先へ行くことに大いなる価値を感じたのだ。

「プルス・ウルトラ」は最初こそカルロス一世が個人的に好んでいたモットーだったが、情熱的なスペイン国民はこのモットーを好んで受け入れ、結局はスペインという国家のモットーになった。

プルス・ウルトラは、今でもスペインの標語であり続けているし、スペインの国章にもはっきり書かれている。

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(スペインの国章)


僕はこのエピソードが大好きでよく人に話すのだけれど、話している内にいつの間にか自分のマインドも侵食されていたのかもしれない。

クライアントに企画を提案する時、「コンプラ的に許されるギリギリ」こそ僕が攻めるべきラインであった。そこを越えても、「ネク・プルス・ウルトラ(その先には何もない)」である。

だけど、僕はカルロス一世のエピソードが好きすぎて、「プルス・ウルトラ(もっと先へ)」に行こうとしてしまったようだ。クライアントに「コンプラ違反です」としょっちゅう怒られていた。暴走プルス・ウルトラである。


カルロス一世やコロンブスは「プルス・ウルトラ」で大いに成功を納めたけれど、僕は単にコンプラ違反を咎められただけだった。残念ながら僕の挑戦は純然たる「ネク・プルス・ウルトラ(その先には何もない)」に終わることばかりだった。

これはもう暴走プルス・ウルトラと呼ぶしかない。明らかに「その先には何もない」のに、プルス・ウルトラをやってしまうのは愚行だ。

まあ、僕の懸命だったところはクライアントがブチ切れない程度の暴走プルス・ウルトラにとどめたことである。3個の提案のうち1つが暴走してる程度なら冗談で済む。コンプラのラインは踏み越えてるけど、クライアントのブチ切れラインは踏み越えていなかった。そのラインさえもプルス・ウルトラしなくて本当によかった。そこも踏み越えていたらすぐに失職していたことだろう。


そういうことで、今回は「提案したら怒られた企画4選」であり、「暴走プルス・ウルトラの産物4選」でもあるものを書いてみようと思う。お付き合い頂ければ幸いだ。


①夕張の地域おこし企画

3年ほど前、北海道夕張市の関係者と話す機会があった。夕張市は「財政破綻した街」として知られている、衰退した街の典型事例みたいな場所だ。

彼は「夕張市は財政破綻を経験して、ガムシャラに新しい試みをやろうというフェイズに入っている。割と何でも柔軟にできるので、面白いことができないだろうか?」という意味のことを言った。

よっしゃ面白い企画出したろやないかい」という気持ちになった僕は、「現状、夕張市にはどんな活用できそうな場所があり、そこをどんな風に使おうと考えているか?」と質問してみた。彼の回答はこうだった。


ゴーストタウン化した区画がたくさんある。
区画丸ごと人が住んでいないので、ここを活用すると面白いことができそう。
・現状、「ゴーストタウンを丸ごと使ってサバゲー」などを考えている。


そして、彼は聞いてきた。「このサバゲーという企画はどうか?」と。

僕は率直に意見を述べた。ありきたりで全然面白くない。サバゲーファンに訴求するなら別にいいけど、画期的な企画として注目を集めるシロモノではない、と。廃墟をサバゲーフィールドとして活用した事例は腐るほどある。


彼は少しムッとしながら「ではお前はもっと良い企画を出せるのか」と問うてきた。こういう時、パッと思いつくこともあれば思いつかないこともあるのだけれど、この時は幸いにして前者だった。僕は自信満々で答えた


・「1区画丸ごとガソリンを放って燃やす」というのはいかがでしょう?

・「火事と喧嘩は江戸の華」という言葉があるように、日本人は火事が好きな国民性です。家屋が燃えることに対して美を見出します。

・江戸時代はとにかく派手に家が燃えました。家が密集していたから延焼もしやすく、数万の家が一度に燃えることも度々あった。野次馬にとっては最高のショーだったと思います。

・しかし、現代の住宅は技術の発展や消防法の整備と共に燃えにくくなりました。もう「江戸の華」であった大火事を見ることは不可能です。

・そこで夕張のゴーストタウンです!区画を丸ごと燃やすことで「江戸の華」を復元できます。日本人のDNAに刻まれた「大火事を見る喜び」を復活させませんか?

・「令和の大火ツアー~北の大地で江戸の華復活」みたいな名前のツアー旅行として売り出して、近くの山から燃え盛る街を一望できるツアーにしましょう。

・一泊二日で、「初日の昼に燃える前の街を歩いてお別れを済ませ、夜は燃え盛る街を見ながら静かにお酒を飲み、二日目は焼け野原になった街を歩く」という終末の美をたっぷり感じられるツアーにしましょう。

絶対バズります。20万RTされて、1000枚のチケットすぐ完売しますよ。


と、自信満々で即興プレゼンを行った。


彼の反応は、こうだった。


街は燃やしちゃダメです!!!


街は燃やしちゃダメ」という未就学児でも全員理解してそうな情報を教えられて1秒で却下されてしまった。

僕も別に「街は燃やしていい」と誤解していたワケではないんだけど、形としては彼に教えられたことになってしまった。なるほど、街は燃やしちゃダメなんだね。うん、知ってた。


それにしても、今あらためて書き起こしてみてもこの企画はやはりイケていると思うのだけれど、彼には全然ウケなかった。他にもゴーストタウンを抱えている自治体の方とかいらっしゃったら勝手にパクっていいのでぜひやってください。もしよかったら実行時には招待とかしてもらえると嬉しいです。よろしくお願いします。



②絶倫将棋王グランプリ


……と、引きのある見出しを見せたところで、以下有料になる。

夕張市の人からは別に1円ももらってないので、「仕事以前で終わった」という感じなのだが、②以降は「仕事として受けていたもの」になる。

そして、仕事を頂いた会社の名前もズバリ出していく。気になる方はぜひ課金して読んで頂きたい。②の会社と③の会社は割と皆知ってる有名企業なので、実感を持ちながら楽しく読めると思う。

単品購入(300円)もできるが、定期購読(500円/月)がオススメだ。4月分の4本の記事が全部読めるのでオトクだよ。

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