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最近受けた「間違った解釈」2つと、人を評論する上で持っておきたいモーパッサン基準について。

「誰もオレのことを分かってくれない!!」


そう叫ぶことができるのは、10代の専売特許である。普通、大人は言わない。

たまに大人がいきなり叫び始めるケースもあるが、そういう場合は原則として「困った人」として処理される

自分を完全に理解してもらうことなど不可能である。どんなに親しい友人や恋人や家族であっても、完全に理解してはもらえない。というか、人間は自分のことさえも全然理解できていない

たとえば、エリン・ウィットチャーチとニコラス・エプリーが行なった実験がある。被験者は、自分の写真を撮影された後、「無加工の写真はどれでしょう?」と、加工度の異なる数枚の写真を見せられる。その結果、最も多く選ばれたのは10%~20%良く加工されたものであった。つまり、僕たちは自分の顔が客観的にどう見えるかさえも理解していない。実態よりもイケてると勘違いしているのだ。


「顔」という比較的観測が容易なものでさえ理解できないのだから、ましてや自分の「能力」や「性質」などはもっと理解できない。

そんな複雑怪奇なもの、自分でさえ全然理解できないものを、他人に理解してもらおうなんて傲慢この上ない。

そういうことを、我々は生きていく間に学習していく。誰かを完全に理解するとか、誰かに完全に理解されるとか、そんなものは想像上のユートピアにすぎない。せいぜい、できる範囲で最善の努力をするしかないのだ。理解する上でも、される上でも。


よく誤解されている

インターネット芸人なんぞをやっていると、「理解されてないなぁ」と感じる機会ばかりである。Twitterのエゴサーチやらリプライやらで見える意見は(肯定的なものも否定的なものも)半分以上は的外れで、誤解に満ちている。

だからといって別に嘆き悲しむことはない。人が人を理解できないのは当たり前のことだし、ましてやインターネットでチョロっとコンテンツを見ただけで理解できるはずがない。的外れな評論ばかりになるのは必然だ。

インターネットにコンテンツを垂れ流して生活するようになって6年。僕は僕に対して向けられる的外れな評論をスルーする習慣ができていた。


だけど、最近は時々、「間違って解釈されるのって面白いな」と思うようになった。

というのも、間違った解釈の理由が見て取れるからだ。「なるほど。こういうコンテンツを出しているとそうやって解釈されるのか」という学びがある。間違いには間違いとしての価値がある。


先日、『「わかる」とはどういうことか』を読んだ。

脳の高次機能障害の専門家が、「わかる」について種々の考察を繰り広げる本である。そこそこ興味深い話がいっぱい出てきたのだが、ぶっちゃけ、前書きがいちばん面白かった


筆者は神経内科が専門で、その中でも高次機能障害学という分野を主として研究しています。何をやっているかといいますと、脳梗塞や脳出血などで不幸にして脳に損傷を生じてしまい、その結果、認知障害を来した人たちの診断や治療やリハビリです。この人たちの障害はそれまで自然に流れていた心の働きがあちこちで停滞してしまうことです。言い換えると、それまで普通にわかっていたことがわからなくなってしまうことです。つまり、わかるとはどういうことなのか、なぜこの人たちは簡単なことでもわからなくなってしまうのかを毎日毎日考えるのが仕事です

山鳥重.「わかる」とはどういうことか――認識の脳科学(ちくま新書)(Kindleの位置No.92-98).筑摩書房.Kindle版.


なるほど。著者の専門は高次機能障害であり、つまり「わからなくなってしまう」ことだ。

そして、「わからない」について常に考えている著者こそが、「わかる」について論じるに足る人物なのだ。あまり気にしたことがなかったけれど、脳の高次機能障害の研究者こそがこの本を書くのにうってつけと言えるかもしれない。

ここに気づきがあった。「わかる」について論じることができるのは、色々なことを「わかっている」人ではなく、むしろ「わかっていない」をたくさん見てきた人なのだ。光と影の両方を見なければ、デッサンは描けない。


であるとするならば、僕に対して間違った解釈をしている人たちのことも、じっくり見た方がいいだろう。

「この解釈は間違っているなぁ」という話を集めてきて、なぜそうなったのかを考えることで、「わかってもらう」に近づく方法を考えてみよう。

「わからない」を注視することで、「わかる」に近づけたらいい。今日はそういう趣旨である。


以下、直近で僕のところにやってきた「間違い解釈」の実例を見ながら、「なぜそんな間違いが生まれたか?」を考えてみたい。その中でも適宜『「わかる」とはどういうことか』を参照する。それから、人物を評論する時に心がけたいひとつの基準について論じてみよう。「モーパッサン基準」と呼ぶことにする。

有料になるが、インターネット芸人をやっているとどんな誤解をされるのかという話に興味がある方は課金して読んで欲しい。単品購入(300円)もできるが、定期購読(500円/月)がオススメ。2月は4本更新なのでバラバラに買うより2.4倍お得。



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