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零細事業者のための『青銅の羽根の拾い方』【理論編】


かつて、貧乏は甘美なものだった
一日の終わりにオイルランプを灯して、静寂の中で夕食をとる。そんな質素と倹約の中にこそ、密かな喜びが溢れていた。

アルベール・カミュ『A Happy Death』Kindle 版 位置No.132-133より引用。翻訳は僕)


カミュの書いた一節が正しいかどうかについては議論が分かれるところであろう。明日の飲み会であなたが突然「貧乏は甘美だ」と言い出したら、周囲の同僚は飲みすぎを疑うと思う。

僕も別に貧乏が甘美だと主張したいワケではないし、お金なんてあるに越したことはないと思うが、低所得者としての生活は意外と面白いというのもまた事実である。


以前、2019年の収入や売上や経費やその内訳、そして納税額を全て公開するnoteを書いた。

結論をざっくり言うとこうだ。

・零細フリーランスは□□を活用すれば納税額を○○円に抑えられる
・これは、ものすごく合理的な生活スタイルだ。納税額を最小化することで、労働の効率を最大化できる
・なるべく働きたくない人は納税額を最小化できる範囲の労働だけをするべき。それを超えると労働の効率が悪くなる。

要するに、めちゃくちゃセコいライフハックである。

セコいライフハックではあるのだが、僕は結構気に入っている。お金はあまり必要ないので、なるべく働かずに生きていきたいという人にとっては最善と言ってもいい生存戦略だろう。

この異常に具体的な数字付きの生存戦略解説はそれなりに好評を頂いた。


「珍しく皆に有益な情報を提供できてよかったなぁ」と思いつつ、「この知見はもっと深めて2020年の確定申告の時にも記事を書こう」と決めた。そして、一年間アイディアをブラッシュアップした。

今日は満を持して、一年間ブラッシュアップしたアイディアを書こうと思う。

と言っても、まだ年は明けていないので年収は確定していない。なぜ年明け前に書いているかというと、こういう引用ツイートを頂いたからだ。


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(引用元ツイート:こちら


確かに、12月中にリリースした方が、零細事業者読者の皆さんが読んで知見を活かせるはずだ。年末の駆け込み経費消化の方針作りに役立つかもしれない。

幸い、僕は既に2020年の確定申告の準備作業がほぼ終わっているので、今年の年収やそれに応じた納税額などもほとんど決定している。もちろんまだ2020年が終わってないので確定ではないが、そんなに大きく変動することもあるまい。だったらもう書いてしまおう。そういう意図である。


「青銅の羽根の拾い方」

本記事を書くにあたって大いに参考にした本がある。『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方-知的人生設計のすすめ』だ。


基本的に僕は「金持ちになれる方法」みたいな本が大嫌いだし、それを真面目に読んでる人間がもっと嫌いなのだけれど、この本はとても良かった。

「ユダヤ人大富豪の教え」系の本に出てくるクソみたいな精神論(「夢は必ず口に出そう!」みたいなヤツ。以前ブックオフで立ち読みした時に「夢は必ず口に出そう!」という見出しに蛍光ペンで線が引かれているのを見つけてしまい、乾いた笑いが止まらなくなってしまった)など一切なく、徹頭徹尾、税制度過去のデータにフォーカスして書かれており、非常に現実的な内容である。

著者は、本のタイトルになっている「黄金の羽根」をこう定義している。

制度の歪みから構造的に発生する”幸運”

(『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』Kindle版位置232より引用)


そう。これは「制度の歪みを利用しろ」という本であり、換言すると、制度上のバグを上手くハックすることによって圧倒的に得できる、という本なのだ。

そのコアとなる内容は、法人と個人という2つの人格を所有し使い分けることによって様々な得ができる、というものだった。

非常に面白いし内容もまっとうな良い本だったのだが、1つ不満が残った。この本はそれなりの収入がある人をターゲットとして想定しており、年間の売上が400万円みたいなしょぼい零細事業者を想定していない

本書の中では「全ての利益は法人に集め、年間500万程度だけを法人から個人に移そう」みたいな提言がなされるが、そもそも僕たちは年間500万も利益が存在しない

というか、法人は持っておくだけで法人住民税の均等割が年間7万円発生するので、これが零細事業者には重くのしかかる。「法人を持てば得!」というのはあくまでまともな売上がある人に限った話である。零細事業者的には全然得じゃない

そう。われわれ零細事業者は『黄金の羽根の拾い方』を実践できないのである……とはいえ、「実践できないじゃねえか!」と文句を言うのはお門違いだ。タイトルにもあるように、この本は「お金持ちになれる」方法を教えており、想定ターゲットはお金持ちになりたい人なのだ。僕たちのようななるべく働かずそれなりに暮らしたい人ではない。


だけど、「なんだ……じゃあ零細事業者は制度の歪みを利用できないのか」とガッカリする必要はない。制度の歪みは実は零細事業者の世界にもたくさんある。というか、零細事業者の世界の方が多いくらいだ。なぜなら日本は「格差の是正」という名目の元で、低所得者に優しい制度がたくさんあるからだ。

ということで、今日書くのはいわば「零細事業者版『黄金の羽根の拾い方』」である。

いや、ちょっと語弊があるな。黄金の羽根ってほどきらびやかなものではない。大金持ちになるというよりも、あんまり働かない割にそれなりに得して小金を貯めるみたいなセコい話なので……青銅の羽根と呼ぶことにしよう。


「青銅」は、人類が汎用的に利用した最も古い金属である。紀元前3000年頃にシュメール文明によって加工法が発明されてから、地球上のいたるところで何千年も利用され続けてきた。

その最大の特徴は加工のしやすさである。青銅は融点が低く、原始的な炉で融解できるので、だいぶ原始人的な人たちでもちゃんと加工して利用することができた。それなりにしっかりした炉がないと融解できない鉄とは大違いである。

僕が今日提案する「青銅の羽根」もそうだ。だいぶ無職的な人たちでもちゃんと利用することができる。青銅は融点が低いし、青銅の羽根は適用可能年収が低いのだ。

具体的には、売上0円~500万円くらいのレンジを想定して書いている。黄金の羽根を拾えなかった人はせめて青銅の羽根を拾おう、そういう趣旨で、今回の記事を書く。


また、今回の記事は2本立てだ。今週は「理論編」で、来週は「実践編」になる。

今週の「理論編」ではまず、零細事業者が利用できる制度の歪みを指摘することに主眼を置く。そして、その制度の歪みを利用するためにはどのような条件をクリアすればいいか、確認していく。

そして、来週の「実践編」では、実際に僕の収入や経費などを全公開しながら、その条件をクリアするために僕がやっていった様々な施策を見ていく。利益を150万近く圧縮するような血の滲む努力を見て、箱根駅伝のランナーを応援するような気持ちになって欲しい。


ということで、以下有料部分になるが、「零細事業者なので青銅の羽根を拾いたいぞ!」という人にはオススメだ。また、「関係ないけどお前の収入が知りたいぞ!」という方は来週の記事だけ読めばとりあえず収入などの数字は分かるが、背景にある思想は今週の記事で説明されるので、イマイチ消化不良に終わるかもしれない。できれば今回の記事もセットで読んだ方がいい。

本記事の単品購入(300円)もできるが、定期購読(500円/月)がオススメだ。いつ入っても今月書かれた記事は全部読める。12月は4本更新なので、バラバラに買うより2.4倍オトク。ぜひ定期購読を検討されたい。


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