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スコットランド民謡、若しくは蛍の光・別れのワルツ

海外の民謡が好きである。民謡という言葉はドイツで生まれたようである(独語:Volks-Lied(英: Folk-Song)で「民衆の歌」)。何れにしても古くから民衆の間で口承で歌い継がれているものが主旨であろう。民謡は一般に「作曲者不詳・原題不明」というのが多いけれど作曲者は分かっているものもある。題名・歌詞は最も有名で広まった詩人のものが一般的に用いられるが、別の題名・歌詞しもない訳ではない。

その民謡の中でスコットランド、アイルランドのものが特に好きで、今回はスコットランドを取り上げる。個人的な趣味で日本でよく知られているもののベスト5をあげると以下のようになるだろう。
①Annie Laurie、邦題:アニーローリー
②Auld Lang Syne、邦題:蛍の光or別れのワルツ
③Comin' Thro' the Rye、邦題:故郷の空or誰かさんと誰かさん
④Loch Lomond、邦題:ロックローモンド
⑤My Bonnie Lies over the Ocean、邦題:マイボニー(愛しのボニー)

②と③はスコットランドの国民的詩人で民謡の収集にも尽力した「スコットランド最愛の息子」と呼ばれるロバート・バーンズの作詞によるものであるにも関わらず、原詩と全く関係のない邦題、作詞となっていて、本来の詩が余り知られていないのは非常に残念である(最もこの種のものは多い)。

1.4拍子と3拍子のオールドラングザイン、蛍の光と別れのワルツ
オールドラングザインは世界的に広まっており、様々なシチュエーションで使用されているが、本来は年始=新年を祝う時に歌われるもののようである(他に披露宴や誕生日など)。準国歌とも言われているようだ。一方、日本では「蛍の光」となって別れの時に通常歌われていた。卒業式、年末の紅白歌合戦フィナーレ、閉会式など。今は小学校~高校の卒業式ではもう歌われていないかも知れない(因みに「仰げば尊し」はとっくの昔に卒業式で使われなくなった)。

「蛍の光」は通常4拍子の曲だが、オールドラングザインの編曲として3拍子のものが別にある。「Farewell Walz」、邦題「別れのワルツ」と言われるもので、デパートや商業施設、公共施設、遊興施設などの閉店を知らせる音楽=客の追い出しソングとしてよく使われていた(いた、と書いたは今がどうなっているか不明なため)。これは「別れのワルツ」というレコードが空前のヒットとなったことが背景にあると言われている。

3拍子のオールドラングザイン/Farewell Walzの初出はヴィヴィアン・リーとロバート・テイラー主編の映画「Waterloo Bridge」、邦題「哀愁」と言われている。映画の内容には触れないが非常に評価が高かったようだ(1940作、日本公開は1949年)。その中の1シーンで3拍子のFarewell Walzが流れ、これが非常に日本人に印象を残したので、コロムビアレコードが是非レコード化をしようということになった。しかし、音源がなかった。(当時はサウンドトラック制度なかった?映画会社のMGMに音源提供を依頼したがNGだった模様)。

そこで昭和の三大作曲家の一人古関裕而(他の二人は古賀政男、服部良一)に採譜と編曲を依頼しレコード化したところ爆発的人気・売れ行きとなった次第。レコードには「ユージン・コスマンと彼のオーケストラ」と表記されていた。ユージン・コスマンとは勿論古関裕而のことである。

映画原題が「Waterloo Bridge」であるとおり、第一次大戦中のロンドンのWaterloo橋での男女の運命的な出会いと別れがある。邦画の「君の名は」はこの映画を素材として橋を数寄屋橋に変えて制作されたものである(自身は観たことがない)。「Waterloo Bridge」はAmazon Prime会員ならば無料で観ることができる(残念乍ら無料なのは吹き替え版なのでお薦めしない)。ついでにいうと「蛍の光」は第二次大戦/太平洋戦争中も「敵性音楽」の対象とならなかった。
<補足>
現在の韓国の国歌「愛国歌」はいい曲である。歌詞は同じだが、実は嘗て曲としてAuld Lang Syneが使われていた。

2.「故郷の空」よりドリフの「誰かさんと誰かさん」
「Comin' Thro' the Rye」に関しては、「故郷の空」がスコットランドのものと題名も歌詞も全く関係がなく、寧ろ不謹慎な歌と言われたドリフターズの「誰かさんと誰かさん(が麦畑)」の方が原歌詞の茶目っ気のある雰囲気をそのままよく伝えていると言われたのはご存じの方も多いであろう。作家・作詞家であるだけでなく翻訳家でもあったなかにし礼の作詞なので、原歌詞を損ないたくなかったのだろうと推察する。

大学で一般の学生に交じって受けている授業で、教授がウェーゲナーの大陸移動説(continental drift theory, theory of continental drift)の説をされた際、「移動とはDriftでドリフターズ(Drifters)と同じある。ドリフターズを知っている人は手をあげて下さい」と言われたところ、学生の多分1/4程度しか手が上がらなかった。やはり昭和は遠くなりにけりと感じた。ドリフターズは米国のコーラスグループのThe Driftersから取ったもので、当初「サンズ・オブ・ザ・ドリフターズ」(米国の本家ドリフターズの息子たち)という名前で活動していた。

参考:
古関裕而の「別れのワルツ」。B面は「アニーローリー」
https://www.youtube.com/watch?v=EgmxcF3zXHc

Auld Lang Syneの歌詞
https://eigouta.com/lyrics/AuldLangSyne.html

Comin' Thro' the Ryeの歌詞
https://eigouta.com/lyrics/CominThroTheRye.html

(了)


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