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シェア型書店に参加

6月の下旬、ふと、シェア型書店の1つ、神田神保町の「ほんまる神保町」に棚を持つことにした。そこに至る話と、これからの話を、一回まとめておこうと思います。


ひとり出版者

今年 2024年5月から、完全無職となり(失業保険も切れた)しばらくの間、個人事業主として生きてみようと思いました。やりたいこと/できることがポイントになりますが、

  • 研究者(物理、計算科学)

  • プログラマ

  • 技術同人誌活動

  • コミュニティ活動

あたりが経験値としてある感じです。その辺の自分の棚卸しは、昨年 2023年5月に14年間勤めた会社を辞めた後の就職活動に際して、かなりじっくり考えました。

これらの経験の中で、ビジネスとして考えたとき、「技術同人誌活動」が一番「営利活動」だなと思ったので、「出版業」を軸にすることにしました。スケールしなくても、小さいところで成立すればよいので、最初から最後まで自分でできることもポイントかと。

腹を括る意味でも、これまでは「技術書典」のオンラインでの活動のみでしたが、こちらも話題になってた「文学フリマ」、これはリアル会場で対面で実際に本を売る活動ですね(当たり前なことですが)、ここに参加することにしました。そうこうしていたら、ツイッター(今は𝕏ですね)で「ほんまる神保町」という「シェア型書店」がオープンした、というニュースを目にしました。いいタイミングだと思い、棚を1つ、契約しました。

場所はとても大事だと思いましたが、いいところは既に埋まっていて、賃料もお高め。実際にどれくらい回るのか予想もつかないので、Bプランで申し込みをして、地下1Fの52章(一番端っこ)の5節(下から3段目)に決まりました。

「灰泥屋」代本板のデザイン

「シェア型書店」の棚主には、いろいろなタイプがあると思います。書店員になったつもりで新刊本の中から自分のチョイスを並べたい人、古本屋の店主になったつもりで手持ちの貴重な本を届けたい人に売りたい人、出版社のアンテナ・ショップ的に自社の一押しを並べたい棚。ぼくの場合は、ひとりでスタートした「灰泥屋」の本を実際に市場に流通している本と一緒に並べて売ってみたい、というのが一番の目的です。売るだけなら、技術書典BOOTHアマゾン でもいいわけですが、本棚の前に立って、手にとってパラパラとページを眺め、目次を眺め、本棚に戻して、という本選びの醍醐味が、リアルの書店に並ばないとできないですよね。

背景

自分と出版(本を書くこと、本を売ること)についての、これまでの関わり。

書くこと(研究者として)

研究者(物理)をやっていました。研究者は論文を書くことが、その仕事の1つです。(そんなに大量ではないですが)論文は書いてきました(基本、英語ですが)。日本語での解説などもいくつか依頼されて書いた経験もあります(その雑誌の編集、校正が入ります)。

書くこと(個人として)

5年ほど前からしばらく、「ZENKEI AI フォーラム」というコミュニティ活動を主催していました。その中で、話の流れから本を書くことになりました。いわゆる「技術同人誌」というもので、2020年コロナのためオンラインでの開催になったイベント「技術書典9」で、純粋に自分の書きたい本として1冊の本を書きました。

作ること

本を書くのは、学生の頃から LaTeX を使ってたので、 PDF として体裁を整えることとかは経験がありました。一方で、本といえば(世代的なものかな?)やはり紙の本だと思ってます。買う時も、基本、紙の本です。技術書典に参加するにあたり、いわゆる「同人誌印刷」も体験しました。日光企画さんで100冊、ドンっと、印刷しました(初参加なので、どれだけ売れるか分からない状況なんですが、今考えると思い切ってますね)。原稿だけではなく、表紙もデザインして、紙を選んで、と。そして、手元に自分の本が届く。これは、やはり感動しました。

売ること(オンライン)

自分で書いた本は、イベント中はイベント・サイトで頒布されます。イベント後も、電子版は継続的に頒布されますが、紙の本は一旦終了となります。そのため、みなさん BOOTH などのオンライン・サービスで、紙の本を各自販売されてます。ぼくも一通りセットアップしました。それから、アマゾンの個人出版サービス「Kindle Direct Publishing」が、電子版(Kindle 本)に加えて物理本(ペーパーバック)の出版もサポート開始したので、そちらでも出品してみました。この辺の状況を一通り経験したあと、「文学フリマ」の発端となった大塚英志『不良債権としての「文学」』を目にして、DTP (Desktop Publishing) が(やっと)現実になったんだなと思いました。ぼく自身、マイコン世代の子供でしたが、あの頃「個人をエンパワーするコンピュータ」というコンセプトが、時間はかかったが、出来上がってたね、と。

売ること(リアル)

オンラインで本を売ることは、それ自体、素晴らしいことだと思います。ぼく自身、出不精な性格というのもありますが、今は基本的にアマゾンや楽天など本はほぼオンラインで買っています(そんなに沢山は買いませんが)。しかし、1つ不満な点があって、それは「立ち読み」が(基本的に)できないこと。学生の頃は、それでも本屋に立ち寄って、意味もなく徘徊して、気になったタイトルの本をパラパラとめくったりしてましたよね。そういう体験を、自分で書いた本でもしてほしいな、という気持ちがたかまって、その頃ちょっと話題になっていた「独立系書店」のいくつかに「置いてもらえませんか」って直にメール送ってみました。多分、本を書いた直後でちょっとハイになってたんだと思います。残念ながら、ネットで話題になってたような所からは何も反応もなく、しかし、ローカルの金沢のお店の店長さんから「置いてもいいです」と言ってもらえて、リアル書店にも並べてもらいました(1冊ですが、実際に買ってもらえました)。

ビジネスとしての出版業

ぼくはビジネスはちんぷんかんぷんです。基本、好きなことしかできないタイプで、だから研究者を長いことやってきました。しかし、素人なりに、逆に素朴に、ビジネスというかお金と品の流れとか、理解しようとしてます。

農産物

まず最初に「本」を、野菜や果物のような「農産物」として見るとどうだろう、と思いました。本を書く人は農家さん。書店はスーパーマーケット。読者は消費者。出版社とか取次っていうんですかね、そういう裏方は農協(JAってやつ)ですね、きっと。だから、道路にポツンと出てる直売所は BOOTH とかフリマとかになるんでしょうね(小さい JA 的なもの、という見方もあるでしょうが)。消費者に新鮮なものを安く届ける(中間マージンをスキップして、つまり正しい意味での「中抜き」)ってことですね。

出版社

DTP の環境が、気づいたら(想像を超える品質で)整っている現状で、出版社や取次(っていう仕組みなんですかね?)には、どういう意義があるのかな、と考えます。音楽業界における「レコード会社」ですね。いわゆる「スーツ」。バンドマンが「おれたちはスーツを食わせるために頑張ってんじゃねぇ」って言うやつ(誰も言ってないかな?ぼくが今、作りました……というか、出典があるんでしょうが分かりません)。作家さんが「印税が安い」と言っている状況も、出版社という組織を支えるために(経費として)売上から抜かれている、という側面が大きいのかな、と。あと、スケール・メリット(および、売れた作家の売り上げで、売れない作家の穴を埋める的な、それで多様性を担保するという側面)もあるのかな。

初期投資

「本を出版する」にはコストがかかる、という話があります。実際、同人誌を作る時も「さて、今回は何部刷ろうか?」という話です。この点については、しかし時代の進歩というか、状況が変わりつつあること、少なくとも2つのポイントは、念頭に入れた方がいいと思います。1つは電子版書籍。技術書典に参加していて感じたことですが、電子版だけを頒布するならば、初期コストゼロで、かつ、売上の割合も純粋に高くなるということ。あらかじめ印刷する必要はないし、在庫を抱える必要もない、ということですね。但し、ぼくは個人的に「本は紙に印刷されたもの」という価値観を捨てきれないので(少なくとも読者の立場では)これだけでは決定打になりませんでしたが、最近、もう1つのポイントが出てきました。アマゾンの Kindle Direct Publishing (KDP) がペーパーバックをサポートし始めたことです。アマゾンで、特に再版されたと思われる古い洋書を買った時に、本の裏に「落丁、乱丁本のお問い合わせは Amazon.co.jp カスタマーサービスへ」とある、いわゆる「Print On Demand」本です。実際に KDP で本を出すと分かりますが、要するに PDF がサーバーにアップロードされていて、オーダーが来たらアマゾンの印刷所(プリンター?)で印刷、製本して、そのまま出荷してる、それゆえに(アマゾンは)在庫を持たず、在庫管理も必要ない、というシステムです。KDP でペーパーバックを出す場合、著者は初期費用は一切かかりません。

実際の作業の流れ

契約を済ませて、いざ出品というところから。

ぼくは自分の本を並べたいのですが、「ほんまる」ではそれは「中古」扱いになります。で、ぼくが経験した注意点の1つが値段の指定です。管理画面では「税抜き価格」を指定します。画面上で「税込価格」が計算されて表示されます。その後、登録完了すると確認のメールが届きます。混乱の元は、この確認メールにある税込価格が、登録時のそれと端数がずれる場合があることです。例として、税込 2,000 円の本を登録したい場合、税抜き 1,819 円で登録すると、登録画面では税込 2,000 円となります。しかし確認メールには 2,001 円ですね、となってて焦ります。結論は、ネットの管理画面の値段が実際の値段になります。

中古の本を登録すると、本を送るか持ち込む必要があります。ぼくは遠隔地なのでクロネコヤマトで送りました。

金沢のコンビニから発送したのが6月29日で、棚に陳列が完了したという知らせが届いたのが翌日(!)6月30日。クロネコヤマトさん、「ほんまる」さん、すごいです。(今回の送料は 1,061 円。)

ビジネス・パーソンとしての今村翔吾

ぼくの最近の情報源はツイッター(今は𝕏)なんですが、しばらく前から今村翔吾さんのことはちょくちょく目に入ってました。「ほんまる」に棚を借りる時も、「今村さんがやってる『ほんまる』」と思ってました。本は(まだ1冊も)読んでませんが、いい意味で熱い人だなと思ってます。

まとめ

このノートは、「シェア型書店の棚主、はじめました」という内容です。

ということで、東京のみなさま、「ほんまる神保町」にお立ちよりの際は、地下の端っこまで見に行って、手にとってみてください!

ぼくも実際に自分の棚を見に行きたいのですが、いつになるかな?11月の技術書典か、12月の文学フリマの時になってしまうかな?

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