インハウスエディターやめました。
チャオ。加勢 犬(@Dr_KenDog)と申します。
この記事は「インハウスエディターAdvent Calendar2021」23日目の記事ですが、クリスマスイブのど深夜に公開されました。サンタさんくるかな。
インハウスエディターのアドベントカレンダーにも関わらず不穏なタイトルで恐縮ですが、少しでも皆さんのキャリアのお役に立てれば幸いです。
転職して肩書きが変わった話
タイトルの通り、編集者として丸4年勤めたウォンテッドリー株式会社を退職し、11月から新しい会社でクリエイティブディレクターとして働いています。
「インハウスエディターからクリエイティブディレクター(CD)へ」というと大胆なジョブチェンジのように思われるかもしれませんが、実のところ変わったのは肩書きだけで、業務の内容自体はあまり変わっていません。
肩書きが変わっても業務内容が変わらないのは、単純に前職時代からCDとしての役割に挑戦していたからだったりもしますが、そもそも編集者とCDのスキルセットは重なるところがあり、編集者として仕事をしていたつもりがその業務内容はCDと呼んで差し支えないものだった(逆もまた然り)といったほうが僕のケースには当てはまるのではないかと思っています。
では、編集者という肩書きのまま所属を変えることもできたのではないかと思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかし今回の転職を機に、どうやらインハウスエディターの職掌領域として世間一般にイメージされることと、広義の「編集」というスキルセットが実際に事業会社の中でカバーできる領域との間には大きく落差があるらしいということに気付かされました。
この記事では、転職エピソードを含めた身の上話のついでに、この悩ましいギャップについて話してみようと思います。
編集者の期待役割についての話
そもそも今回の転職は、個人的にずっと気になっていた会社がWantedlyで編集者の募集を出していたので「話を聞きにいきたい」ボタンをポチッと押したことがきっかけでした。
そこで募集されていたのはいわゆるメディア編集のポジションでしたが、事業会社で編集者が携わる領域の幅広さについて身をもって体験していた僕としては、「きっとメディアにとどまらず色んな領域のクリエイティブを任されるんだろうな🤤」と考えてエントリーをしたのです。
しかし、自分がウォンテッドリーでやってきた仕事についてカジュアル面談の場で話したところ「実はちょうどCDの募集も出そうと思っていたんです。kendogさん、CDに興味はありませんか?」と話が切り替わることに。改めてCDの業務内容について話を聞いたところ、自分がこれまでやってきたこと、これからもっと経験を深めていきたいと思っていたことに完璧にマッチしていたので喜んでオファーを受け、今に至ります。
そんなこんなを通じて僕が直面したのは、事業会社における編集者の活躍機会にまつわる認識ギャップです。僕にとってインハウスエディターといえば「法人格の声をつくる仕事」、つまりは「ことばを起点とした事業と社会とのコミュニケーションデザイン」において真価が問われる存在だったのですが、世間一般においてはあくまでも「コンテンツを制作する」「メディア運営を通じて成果を出す」ことが編集者の期待役割とされているのかもしれない。そんなことに気づかされたのでした。
前職時代にしたお仕事の話
閑話休題。前職のウォンテッドリーでは、新規事業のプロジェクトチームに1年間所属した後、デザインチーム(その名もDesign & Editorial Squad)の立ち上げとともにCDO直下の編集者として働きました。デザインチームに所属する編集者は、インハウスエディターとしては珍しい部類なのではないかと思います。
ウォンテッドリーで過ごした合計4年の間に自分が携わった業務をざっと棚卸しすると以下の通りです。
上記のうち、★マークがついているのがインハウスエディターの仕事として一般にイメージされるものではないでしょうか。しかし実際には、マーケから採用まで、紙媒体からデジタルプロダクトのUXまで、幅広いクリエイティブに携わる機会があることがお分かりいただけると思います(インハウスエディターとしてアウトプットを積み重ねるうちに、想定外の打席に立つ機会が増えてくるというのは一種の「あるある」ではないでしょうか。)
「ははーん。つまりは編集者はなんでも作れると言いたいのね。」と誤解されるといけないので、ここでちょっと言い訳をさせてください。僕たちはAdobeツールを駆使してアイデアをビジュアルデザインに起こすことはできませんし、エンジニアリングを駆使して実際に動くプロダクトを作ることもできません。あくまで言語化能力だけを武器に事業課題に切り込んでいくという、なんとも愉快でこわいもの知らずなヤツらです。
なんでそんな連中が事業会社にいるの? という問いは、なんでFFには吟遊詩人なんてジョブがあるの? という問いと似ていなくもありません。要は使いようです。ならばその使いようについて、当事者なりの見解をお伝えしようじゃありませんか。
編集なめんなよという話
言うまでもなく、企業というのはとてつもなく大きなメッセージ媒体です。自社プロダクトだけでなく、Webサイトやメルマガ、SNS、DM、その他諸々の手段を通じてオーディエンス(ユーザー、消費者、採用候補者 etc.)へのメッセージを日々発信しています。
メッセージ媒体である企業がオーディエンスからの信頼やブランド・アタッチメントを獲得するには、その発信内容に対するクオリティコントロールが自ずと必要になります。これが狭義の編集としてイメージされる職務領域です。
しかし、事業における「編集」とは、オーディエンスとの直接の接点にのみ関わるものではありません。ことばを起点としたコミュニケーションデザイン(=法人格の声をつくる作業)は、「私たちは何者であるか」「私たちはなぜこのサービスを提供しているのか」と言う事業のBEING(実存)に深く根ざし、それを社会に対して開いていく過程のすべてに関わるものであるからです。
それはたとえば個々の記事制作において、メディアの掲げるゴールをもとに企画を構想し、タイトルを練り、カメラマンやライターを手配し、取材の段取りを整え、現場のディレクションをし、原稿に朱入れをするという作業の流れにも似ています。編集者は、その制作プロセスにおいてコンセプトの構想段階から最終アウトプットのクオリティコントロールまでのすべてに責任を負っているのです。
それはメディア/コンテンツ編集という個別具体的な手段を離れても変わりません。現職では新規事業の立ち上げプロジェクトに参加することになったのですが、僕の役割範囲として個別のライティング領域(アプリケーションレイヤー)にリソースを提供するだけでなく、その根幹となるコミュニケーション・コンセプトの開発(インフラレイヤー)にもオーナーとして携わることになりました。
下図は、チーム内の役割整理のために用いられたものに、僕が若干の翻案を加えたものです。僕は青枠で囲われたすべての領域に関与することになったのですが、それはつまり編集によって解決できる事業課題がこれだけあるということの証左ではないかとも思っています。
しかしその一方で、一般的にインハウスエディターの管掌範囲としてイメージされるのはオレンジ枠の範囲であるというやるせない現実があります。なので僕は今回の転職を機に、名刺から「編集者」という肩書きを消すことによってそのジレンマを解消するという消極的な手段を取りました。インハウスエディターコミュニティの皆さんごめんなさい、僕はヘタレです。
とはいえ、「クリエイティブ・ディレクター」なんておしゃれな肩書きがついたところで、あくまで心は編集者。もしも誰かに「インハウスエディター? ああ、オウンドメディアの編集担当のことね。外注で間に合うっしょ。」なんてことを鼻くそほじくりながら言われたとしたら、上の図をA3サイズに印刷して「編集なめんなよ」の捨て台詞とともに突きつけてやろう。そんなことを考えている毎日です。