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取材Vol.8/「可能性と引き出しを広げる人生」スペインの美容師×ライター・きえさん

現在、スペインのカンタブリアという街で美容師とライターをされているきえさん。彼女はなぜ、日本から1万キロ以上も離れたスペインで2つの異なる仕事をしているのだろうか。海外、しかも美容師とライターというまったくの異業種を楽しんでいるきえさんに、揺れる本音と10年後の夢について話をうかがった。

きえさんのプロフィール

きえさん_プロフ画像

海外への憧れが強く、英語力ゼロにもかかわらずイギリス行きを決めた行動派のきえさん。現在はスペインの北部にある街カンタブリア州で美容師とライターの異業種ワークを楽しんでいる。

2021年3月にはnote主催のコンテスト「新しい働き方LAB」で新しい働き方LAB賞を受賞。現在は趣味で面白い人「おもろびと」を訪ねてインタビューしながら、自分の可能性を広げるために、さまざまなメディアに応募する毎日。

Twitter:@carmeri2


バイト代を貯めてまで行った美容室が人生を変えた

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石川県の田舎で育ったというきえさん。子ども時代は勉強が嫌いで、遊ぶことに夢中だったそう。自然に囲まれた環境だったこともあり、セミ取りやダンゴムシで遊ぶなど自然児のように過ごしていたと話す。

一方で、海外には非常に関心があり、教科書などに載っている外国の風景の写真をひたすら見ていたんだとか。海を渡った先の世界がどんなものなのか、とても興味が引かれたのだそうだ。

そんなきえさんが美容師の道へ進もうと思ったのは高校3年生の頃。当時、たびたび通っていた大阪で有名だった美容室に、バイト代を貯めて訪れた。そのとき、帽子を被って働いている美容師を見たのがキッカケだった。普段利用している美容室では見たこともないファッショナブルなスタイルで働く美容師を見たきえさんは、かなりの衝撃を受けたそうだ。

「すごくオシャレで、カッコよく見えたんです。そこからです。『高校を卒業したら、絶対に美容師になるぞ!』と思うようになったのは。高校卒業後は、イギリスに本拠地を置くヴィダルサスーンの技術に憧れ、美容師免許を取るために通信制の美容学校で3年間学びながら、美容室に勤めて腕を磨く日々。8年ほど、大阪や東京で美容師として働いていました」

仕事を楽しみつつ、プライベートも大切にしていたきえさんには、当時、夢中になっていたアーティストがいた。どうしても会いたくて、英語を全く話せないにもかかわらず2週間の休暇を得てイギリスに向かったというから驚きだ。

「半分、追っかけみたい」と語るきえさんだが、言葉もわからない海外へ行くことについては、やはり不安もあったそう。けれど、それを乗り越えられたのも、会いたい気持ちが強かったからだと話す。

ラオスの路上で髪を切る

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イギリスから帰国後、日本で再び美容師の仕事を続けながら海外へと思いを馳せる日々。「また海外へ行きたい」という気持ちで毎日過ごしていたそう。そんなときに目に入ったのが旅エッセイの本だった。

「とにかく海外へ行きたかった。アジアなら近くて行きやすいけれど、近場のタイやカンボジアではあまり海外っぽさが感じられない。行き先を探しているときに、たまたま読んだ本にラオスのことが書いてあって。それをきっかけに『よし、ラオスに行こう!』と思い立ちました。その1週間後にはラオスにいましたね。バックパックを背負った、ただの旅行のつもりだったんですけど、せっかく旅行するならと、ラオスの道ばたでラオス人の髪を切ってました(笑)」

髪を切っているとき、ラオスに職業専門学校を作るプロジェクトをしている方に声を掛けられたきえさん。美容の専門家としてお願いできないかと言われ、ラオスで美容師技術を教えることになった。その後、日本とラオスを往復する生活が4年ほど続き、「もっとクリエイティブな仕事をしたい」と思うように。

ヴィダルサスーンの技術に憧れて美容師になったきえさんには、いつか、ヴィダルサスーンの本拠地であるイギリスで働きたいという憧れがあった。そんなとき、たまたま日本でイギリスの美容師の求人を見つけ、「夢が叶う!」とさっそく応募。

技術テストに見事合格して、夢であったイギリス行きが決定。憧れの地で美容師として働き、2年が経った頃。スペイン人の恋人(現在のご主人)との会話をキッカケにニュージーランドへ行く決心をする。

「彼から『そろそろスペインに戻って、一緒に住まないか』という話が出て。せっかくイギリスにいて英語を話してるのに、もったいない気がしたんですよね。英語も、まだもうちょっと学びたい。ちょうど30歳になる年だったので、『あ、ぎりぎりワーキングホリデー行ける歳だ!』と思って、半年間だけ遠距離恋愛になるけど大丈夫やろと(笑)。南半球行ったことないし、『ちょっと行っとこか』という軽いノリで行くことにしたんです」

書くことは美容師の仕事に似ている

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ニュージーランドに旅立ってから半年後、恋人が待つスペインへ。美容師を続けながら、美容師以外の仕事もやってみたいと思い始めたきえさん。なぜ美容師以外の仕事を求めるようになったのか、本心を聞いてみた。

「美容師一本で自分の世界に集中するあまり、世間を知らない自分に気づき、視野の狭さに焦りを感じたんです。イギリスで働いてたときも、自分が求めてたものが、ある程度叶ったことに満足していて。もっとクリエイティブな仕事をしたい気持ちよりも、平凡な家庭を築きたい。プライベートも楽しみながら生きたいなと思うようになりました。それから、自分が望む生き方について考えるようになり、今まで挑戦したかったことをいろいろ体験してみたところ、一番興味をそそられたのがライターだったんです」

働き方を変えたい、美容師にプラスして強みにできるものをと求めた結果、行きついたライターの仕事。ところが、海外で日本語を使わない生活をしていたため、母国語にもかかわらず半分忘れかけていることにコンプレックスと焦りを感じたという。

「いっとき日本語をまったく使わない時期があり、そのときにリアルルー大柴になって。『藪からスティック』って普通に言っちゃいそうでした(笑)。ライターのお仕事を始めてからは、以前よりも日本語力が上がり、お仕事を通して視野が広がっていくように感じています。美容師とライターの仕事は、やっていることこそ全く違うものの、お客さまのオーダーをくみ取り、求められるものに仕上げるという点では似ているんです」

しかし、ライターを続けているうちに、文章力の成長が感じられなくなり、壁にぶつかってしまう。打開策を探しているうちに、Twitterでライターコンサルをしている中村洋太さんのことを知り、さっそくコンサルを依頼。そこで中村さんから話を聞くうちに、自分なりの方向性が見えた気がしたという。

「中村さんからコンサルを受けた時、救われた気持ちになりました。でも、いざ前に進もうとしたら難しくて。自分が書きたいことを書こうとしても、これって仕事になるんかなって雑念や不安、焦りが出てくるんですよね。なので、今は、焦らないようにしつつ、メディアで書きたいと思うモノに近い記事をnoteに書いたり、海外居住を活かして海外をテーマにしたライティングのお仕事をしたりしています」

自分の引き出しを増やして深掘りしたい

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メディアに応募しつつも、「おもろびと」を探してはインタビューしているというきえさん。おもろびととは、きえさんの周りにいる「個性を大事に生きている面白い人」のことだ。

おもろびとのインタビューを始めるようになったのは、趣味を兼ねて始めたそう。

「自分の意見を書くコラムは、内側をさらけ出すようで恥ずかしいと思ってしまって。それに、これを書いたら誰かを傷つけるんじゃないか、大丈夫かと不安が勝る。挑戦していくうちに、コラムは苦手だと気づいたんです。自分でいろいろ試してみて、インタビューはやってみると楽しいし、最終的に自分はインタビュー記事を書くのが向いてるなって思ったんです」

自分の適性に気づいたきえさんだったが、WEBライターの仕事の幅の広さを知ってから、自分の立ち位置に不安を感じているという。

「ライターになりたいっていうのも、一時的に日本に帰ることがあったときに、リモートならお仕事ができるからなんです。ライターを極めて、ライターを通して新しい世界を発見したい。趣味のように楽しめる美容師の仕事と、自分の可能性を広げられるライターを10年後も続けていきたいですね」

20代は美容師の仕事にこだわりを持って臨んでいたと話すきえさん。美容師が天職とまで思っていたんだとか。しかし、30歳を過ぎてライターの仕事も始めてみたところ、気持ちに変化が起き、考え方も変わった。

「キッチリ決めすぎると、自分の可能性を狭めてるのかもしれない。広い視野で自分に可能性があるかもというところは残しつつ、興味があるものはとりあえず手をつけちゃっていいのかもと思うようになったんです。いろんな引き出しを作っておきたいとも考えています。自分の立ちたい位置を決めて、そこをもっと深掘りしていきたいです」

取材後記

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「やってみたいから」「行ってみたいから」という自分の気持ちに素直に生きてきたきえさん。直感を大事にして生きていると、こうも生き生きとした人生が送れるのかと本気で感銘を受けた。
「ライターの位置を決めたら深掘りしていきたい」との思いも、きえさんならきっと実現するはずだ。私も負けてられない。人生は一度きり。自分の気持ちに素直に生きていきたい。

取材者プロフィール

古都りえさん_プロフ画像

古都りえ(ことりえ)
奈良県在住のアラフィフライター。長年、建設業界で経理事務を担当するも、重度のうつ病を発症して退職。寛解後にフリーライターになり、さまざまなメディアで執筆。年齢に負けず、自分の可能性を広げるためチャレンジ中。
公式ブログ:Webライター古都りえの公式ブログ
noteでエッセイ執筆:https://note.com/koto_rie
Twitter:@writer_kotorie

(プロフ画像=きえさん、古都りえさんご提供/文中画像=Unsplash)

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