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瑠美VSクマクマタイム

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私は11月2日Mリーグの試合を見終えた瞬間

日本プロ麻雀連盟のHPに掲載されているコラム
『確率の向こう側へ①』に記されたこの一説を思い出した。


なぜならこの試合で私は強烈な違和感を感じたからだ。


『あのオーラスのチートイは偶然ではなく必然だったのか……?』



クマクマタイム……



麻雀は時として、確率を超えた壮大な結末が待っている。



しかし、それが人為的に操作されて生み出されたものだったら?



「そんなことができる選手がいるはずが………」


今日はそんな試合だった。



私はすぐにこの試合は後世に書き残しておかないといけない。



謎の使命感に駆られ、
マーチャオで4連ラスを引いたにも関わらず、急いで筆を執っている。



今日の試合の主人公は


瀬戸熊直樹。

鳳凰位 3期、十段位 3期、

正真正銘のトップMリーガー



そして

with二階堂瑠美。

その餌食となった選手だ。

彼女の強さはもはや説明不要だろう。

小島先生や灘さん荒さん、森山会長等々素晴らしいレジェンドを近くで見続けてきた人がうまいと言っているからである。

つまりとにかく強いのだ。しかもストロングではなくストロンゲスト。


今回の記事はそんな両雄が作り上げた素晴らしい半荘を、

選手の打牌を学び、意図なども考えながら紹介したい。


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【本記事の概要】

・歴史に残る1戦をただただ味わう記事

・取り上げるのは2021年11月3日のMリーグ第1試合

・打牌意図の解説は、選手に聞いたわけではないので、あくまで想像です

・日本プロ麻雀連盟HPコラム「確率の向こう側」から一部引用しています

有料ですが全部読めます。もし少しでも勉強になったという方は購入いただけるととても嬉しいです。また研究したくなります。

※本記事は敬称略です。

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この試合はまさにオーラスのクマクマタイムがすべてだった。
その物語を印象的だったシーンから巡に振り返っていく。



東2局 瑠美のブレない心を学ぶ

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親番の瑠美が7巡目に4mを切り、9巡目6m引く。
ドラは7p。

何を切るか。

河からは他家の速度感はいまいちわからない。
下家の魚谷が5・6巡目1mをトイツ落とししたぐらいだろうか。

親番・9巡目なので、
ここは安全牌の東を切って目一杯といくか?と思ったところ


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瑠美は9s切り。

なるほど。
たしかにドラの7pを必ず使いたいのであれば98sを払うべきだ。



……




いや、ほんまか?
アガリ率めっちゃ下がったような気が…


とりあえず東切ったほうが…




と突っ込みたくなりそうだが、
突っ込んではいけない。絶対に。




トッププロの瑠美が目指す最終形は、
アマチュアでは想像がつかないところにある。


次巡

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7巡目に4mを切っているため、使えそうで使えない5mを引いた。


10巡目なので、ここは残念ながら危険な5mはツモ切りか?

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しかし、瑠美の選択は8s。


「この2巡のテーマはペンチャンを払うこと」


そんな声が聞こえてくるような、

ペンチャンを一度払うと決めたらやり通す。
その姿勢は麻雀じゃなくとも大切なことだ。



『やはり、プロとしての心構えが違うな……』


この一連の流れを見れば、
社会で生きていく上でブレない大切さを味わうことができるだろう。








東3局 瑠美・ビジネス三色疑惑

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北家の瑠美。

5巡目でうっすら、いや、まぁまぁ三色が見える

二階堂瑠美と言えば三色。

三色と言えば二階堂瑠美。


式にすると
二階堂瑠美=三色

この式については、
それぞれを入れ替えても式が成立することは
小学校を卒業した人なら知っていることだろう。

つまり、三色=二階堂瑠美 である。




そんな三色は何を切るか。

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南は2枚切れの安牌候補だが、
北は場に1枚切られ手に2枚ある分、守備駒としても価値が高い。
であれば恐らく多くの人が南を切るだろう。

もしくは4m、または5mもある。

ただ三色は字牌はなかなか切らない傾向があることから、

恐らく4mか5mだ。


三色の選択は

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打2m。






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やはり打2mです。

間違いありません。すみませんでした。





彼女は得点期待値を思う存分下げ、

大好きな三色を捨てる選択をした。



捨ててはいけない気がする手にもかかわず、三色を捨てたのだ。


『この手で三色捨てたら、彼女はいったいいつ三色を狙うんだろう……。』



というか、『本当に三色狙ったことあるのか…?』
とまで疑いたくなるような。



しかし、そんなことは杞憂だった。


それは彼女の摸打(右手)をみればわかる。


もう一度彼女の摸打に注目して先ほどの画像を見てほしい。

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手と影のコントラストの美しさ、

弓のようにしなやな指先。

すごくフォロースルーがきれいだ。

まるで海南大付属の神宗一郎かのように

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ルミ―の右手からはまったく迷いを感じさせず、
自信を持って2mを切り、
内に秘めた闘志が画面の向こう側から感じられる。




疑っていた私たちは今すぐ恥じるべきだ。



彼女はトップMリーガー。

自信を持って切った2mこそ正着だ。





東3局 主役・瀬戸熊直樹の強欲さ


今日の物語の主役はルミ―じゃない。瀬戸熊直樹プロだ。

彼はなぜ暴君と呼ばれるのか。

まずはそれを見ていこう。

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東3局7巡目の中盤。
58sは自分から見て5枚目。
5sを使いきれるケースは3sの縦引きぐらいしか可能性がないため、
ラス目とは言え、ここで5sを切る人がいてもおかしくない。

暴君は

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目一杯の發切り。


昨今控えめな男子が多い中、
この強欲っぷりは打牌だけで世の女性を虜にする可能性すらあるのではないか。


次巡

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3sをしっかりキャッチ。狙った獲物はやはり逃さない。

さて、ここから何を切るか。

8巡目でありピンズ雀頭変化を見るにはもう怖い巡目か。
ここは安牌の東を残しつつ6sを切りたくなってしまう。

暴君の選択は

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目一杯。これぞ漢。
今日の物語の主役は瀬戸熊で決まりだ。


対照的だったのはルミ―だ。
この局の10巡目、ルミ―の手を見てみよう。

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先ほどの234の三色だった手がなんかよくわかんない感じに成長している。


役牌の北が1枚残っている。
10巡目からするとシンプルに5mを切って、
こちらも目一杯といきたいとこだが、

ルミ―の選択は

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6pツモ切り。



謎。


と思ったが、謎ではない。彼女は実に論理的だ。論理の化身なのだ。

もし58pを先に引いた場合、カン3s待ちの役なしテンパイになってしまう。


麻雀は役ありと、役なし、どっちがワクワクするか?

役ありですね。

ルミ―は恐らく58pを先に引いた場合役牌の北を落として、
なんとなく景色がいいマンズを雀頭候補にし、
タンヤオの役アリを目指したのだろう。この巡目で。

もちろん3sが先に引ければ、58pのリャンメンリーチができる。
これならまだいい。

こう書くと、確かにそれっぽい。納得だ。




東4局 麻雀アマゾネスこそ瑠美だ

ルミ―は字牌を抱える生態であることから、守備的と思われがちだ。
しかし、実際は行くときは行く打ち手である。



東4局、ルミ―はドラ3の手から早々に役牌の西を鳴いていく。

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しかし7巡目、魚谷がドラの8sを切ってリーチ。

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瑠美の手は

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魚谷の宣言牌の8sが鳴ける。

勝負手であり、この手から鳴くのはありだ。


瑠美の選択は、

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鳴いた。


さて、鳴いて何を切るか。
とりあえず中がゴリゴリの安牌のためいったん中を切るだろう。



当然ルミ―は

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7sをプッシュしました。

フォロースルーの形もやはりとてもキレイです。



凡人の私は一旦中を切ってテンパイしたら7s勝負。
自分がテンパイする前にツモられたらしょうがない、
というバランスかと思ったがルミ―は違った。


恐らく、もしかしたら親番の松本も応戦してきたら、
7sが将来的に二人に危険になるかもしれない。
リスクが倍になってしまう。
リスクが倍になるのはつらい。

それならリスクが倍になる前に、今切るべきだ。


さすが、押し引きがトップクラスである。


たまたま結果は

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ロン。


南2局 たいしたもんだね


南2局、13巡目。ラス目ルミ―、最後の親番。

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正直、テンパイが厳しい。
アガリは見込めないと言ってもいいぐらいだ。

ラス目の親番。
マンズの愚形部分だったら私だったら鉄で鳴いてしまいそうだ。
むしろ鳴ける牌全部鳴きそう。



そんな矢先、

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瀬戸熊からルミ―が鳴ける8mが切り出される。


さすがにこれは

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鳴きません。

当然スルーしてツモりに行く。アガレたら嬉しい。



その結果

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15巡目に2mを入れる。イーシャンテンだ。

流石Mリーガー。
しかし、さすがにアガリはもう無理と言っても過言ではない。

ここはポン材も残して5mか9mを切りたいところ。


どっちを切るのか、ルミ―は……




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7m切り。ポン材は残しません。




この時、

解説にたまたま来ていた藤崎が

「この7m切りはスゴイね。たいしたもんだねー」と言っていた。


一体全体なにが、どう、たいしたもんなのだろうか。

わからない。
控えに言っても全くわからなかった。

ただ、あの藤崎がいうのだからたいしたもんということだろう。

二階堂瑠美=三色=たいしたもん



南3局 謎に包まれた藤崎の解説


南3局、この試合のわき役だったトップ目の松本がトップに向けてダブ南を仕掛けたあと、形の悪い手から積極的に2sをチーした場面

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これに対し、実況の松島桃が「全力だぁ!」と言って、



それに応えるように解説の藤崎はこう解説した。








「チーと言ったんなら見事ですね。チーと言わされたとなると怖いですけどね」








意味がわからなかった。






「チーと言ったんなら見事ですね。チーと言わされたとなると怖いですけどね」





一休さんバリにトンチが効いているのか?








いや、一休さんをバカにしないでほしい。






「チーと言ったなら見事。チーと言わされたとなると怖い」
やはり意味がわからない。

というか、そもそもチーと言わされる状況が思いつかない。



たしかに急にフリーで見知らぬ上家が打牌の際に
「チーっていいなさい?」って言ってきたら怖い。確かに怖すぎる。


とはいえ、そんな状況を経験した人なんているのだろうか。





この解説の真相は闇に包まれていく。





南3局 クマクマの手組

この記事で一番書きたかったことが南3局からオーラスまでの瀬戸熊だ。

本題ではないが、まずは瀬戸熊の手組から、

南3局7巡目、子、ドラは8s
下の手牌から何を切るか

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くっつくと嬉しい5p、
3s引くと一通が見えて嬉しい2sは切らないだろう。
恐らく2pか南の2択がほとんどだと思う。


当然瀬戸熊の選択も

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2s切。


なるほど、私には2sは選べないが、何か理由があるはず。


麻雀プロ連盟のコラム、上級/第108回『確率の向こう側へ③』で瀬戸熊は麻雀をする際の心構えを下記のように語っている。

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つまり、瀬戸熊自身は限界まで読み切って2sを切っているのだ。


捨て牌・点数状況・打ち手の思考・この先の展開
限界まで読めばこの局面は2s切が一番。間違いない。


トッププロのMリーガーが、
限界まで読み切って2sを切ったのなら異論はないだろう。





南3局 これがクマクマタイムの布石だ

いよいよこの記事の本題。クマクマタイムについて。

クマクマタイムはどのようにして生み出されるのか。

まず、先ほど瀬戸熊が限界まで読み切って2sを切ったあと、

上家の松本が2pをポンして臨戦態勢。攻め込んでいく。

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同巡、下の手牌で瀬戸熊がドラドラでテンパイをする。

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567にはなりづらい、また両面変化を待つぐらいならリーチがマシだろう。



当然瀬戸熊は

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ダマだった。



一旦、この半荘の結果から申し上げると、瀬戸熊はトップになる。

試合後のインタビューで瀬戸熊はこのときのダマをこう語っていた。

「6p一枚ぐらいはいると思ったんですよね」と。


それならむしろリーチやん。

と私は思った。





しかし、答えはすぐにわかった。

それが「クマクマタイム」なのである。


現在トップ目の松本とは約14000点差ほど、
残り2局で大きいアガリ2回はほしいところ。

トップを取るためには、
なんとしてでもクマクマタイムを発動しなけらばならない。


そのためには、クマクマタイムを発動する手順を踏む必要がある。


まずここで見ておきたいのが
連盟HPのコラム『確率の向こう側へ③』に掲載されている、
瀬戸熊本人が記したクマクマタイムへの手順だ。

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いまいちピンとこないと思うが、とにかく、
上記図の「自分の時間帯へ」、もしくは「やや上昇」に行けばいいのだ。
たぶん。というか私もピンときていない。


ただ、実は、この時点でその道筋の第一関門を突破している。

それが、最初の松本の仕掛けだ。2pを鳴いて松本が戦いに来ている。

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つまり完全に相手から攻め込まれている。

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恐らく瀬戸熊は次に目指すべきは青で囲んだ「うまくあがる」を目指したのではないか。

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なぜかというと、それがさきほどダマに構えた場面である。

なんとかうまくあがりたい一心で、ダマにした結果、次巡

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6pが上家から切られ、アガリ逃してしまってた。

いや、リーチだと出てこない。アガリ逃しではない。


このダマによって本来出ることのなかった6pを
瀬戸熊は「うまくあがる」に利用したのだ。

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ツモ切りリーチ。

これにより、他の対局者からは、ツモ切りリーチのため
「愚形?」
「6pはさっき通ってたよね?」
「リャンメンで打点が高いパターン…?」
など、いろいろ考えさせられてしまうのだ。

その結果、ルミ―が

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終盤かつチートイツイーシャンテンぐらいだけど、
ラス目でなんとか上がりたいルミ―は、

引いてきた6pを

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終盤かつチートイイーシャンテンという厳しい状況だが、
「さっき通ってたよね?」と切ったのだ。



それをクマ―は

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ロン。
うまくあがったのだ。


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しかも同時に、相手(ルミ―)のミスショットによって

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これにより、この南3局でクマクマタイムの扉をあけたのだ。



これを見れば、
もうオーラスどうなったかは説明不要だろう。


オーラス 発動・クマクマタイム

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オーラス。
クマクマタイムの扉を開けたクマ―は、
当然のように地獄単騎の南でリーチを入れる。


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静かに目を瞑る。





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当然一発ツモ。



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当然ウラウラ、ハネマン。優勝。



試合後のインタビューで彼は、オーラスをこう語っている。

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クマ―「(地獄単騎でしたけど)南がツキ牌だったので

クマクマタイムへの扉をあけ、
さらにかつツキ牌とのコンボ。

そりゃぁ当然ウラも乗るわけだ。


もしオーラス子どもではなく、
親番だったら朝まで連荘していたことだろう。恐ろしい。




そんなことよりツキ牌という概念が恐ろしい。助けてください。





ちなみにインタビューの際は、地獄単騎のチートイリーチに対し、
マツカヨは以下のような質問をしていた。

マツカヨ「出上がりはしてもいいかなと?」

クマ―「もちろん、所詮チートイツは単騎待ちなんで」


いやいや、あなたたち地獄単騎なのだから、
上がらない選択肢なんてないでしょう。


……にしても、クマクマタイム恐るべし。

今年のMリーグには注目すべき選手が増えてしまった。

ハギ―、ルミ―、クマ―……

次なるスター選手やいかに。


おわり

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