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空振りしてもいいからフルスイングできる状況をつくる-建築設計編

ヒット・ホームランを打つために、どういった戦略を取るかという話です。
この話の一般論は以下の記事で書きましたが、もう少しヒントとして具体的な話に落とし込んでいきます。

まずは、建築設計において空振りするということはどういうことかを整理しておきます。

建築設計を「仕事」とすると、仕事である以上守らなければならないことが発生します。

まずは契約として決められた納期です。
世の中、事業である以上どれだけの投資をしてどれだけ回収するかという組み立てのもとに動いています。
建築であれば、いつどの時点で用地を取得し、どれくらいの期間をかけて設計をして、どれくらいの工期で引き渡せるか、もちろん、それぞれの期間は短いほど利益が大きくなるので、できるだけ短く設定されるわけです。
こうして、建築設計における納期、つまり期限が決められてきます。

決められた期限の中で、何を確実にやり遂げなければならないのか?
ここがポイントです。
建築を設計して、実際に建物と建てていくためには建築確認を受けなければなりません。建築基準法その他関係法令に適合してますという証です。
この証がないと工事に入れないことになり、工事に入れないということは建物を引き渡せないわけで、事業収支に大きく影響を与えます。
時間を止めることはできないので、期限内に確実に建築確認が受けれる状態にまで設計を詰める、アウトプットを出すということが重要となってきます。
これができていないともうアウトです。
例えデザイン的にフルスイングしてホームラン級の素晴らしいデザインができたとしても、それでもこの案件としてはアウトです。ホームランが得点になることはありません。

他にも、建築設計というのは、求められるプランニングやデザインができているかということだけでなく、コスト面も重要な要素になります。
学生時代の設計課題ではコスト面まで気を遣うことはまずないのですが、実務の世界においてはコストというのは非常に大きなポイントになってきます。
これも先ほどの納期の話と同様に、素晴らしいホームラン級のデザインができたとしても、事業においてコストが見合っていなければ、ホームランはヒット、最悪の場合凡打にその判定を覆させられることになります。
コストが見合っていない状態でそのまま大赤字で実現するなんてことはまずあり得ないのです。

幻となった新国立競技場案(左:コンペ案 右:コスト調整案)

デザイン、引いては計画の大幅に見直しにもなり、ただでさえ必要最小限に切られている期限との戦いは悪化し、さらに苦しむことにもなります。
記憶に残るのは、幻となったザハ案の新国立競技場案です。
コンペ当選時の案から実施設計を進める中であまりにも見合わないコストを調整するために調整された案を見ると、正にホームランが凡打になってしまった事例です。初めからこのコスト調整案だったならコンペは確実に勝ってないでしょう。
そしてご存じの通りですが、このコスト調整案すらも見直しがされ、再コンペが行われ、まったく別のデザインで建設されました。つまり、凡打どころかアウトというわけです。

他にも、法的な与件は必ず守らなければそのまま実現することはあり得ません。これも確実に押さえておかないといけないポイントになります。
これも法的与件を守れない計画・デザインは実現することはないので、ホームランが凡打どころかアウトになってしまう事例ですね。

計画はまだしもデザインというのは中々定量的に評価できない指標ですので、何をもって良しとするのか、逆にデザインだけで中々アウトにはなりません。(簡単に凡打にはなりますが)

ただ、グッドデザイン賞やその他の表彰などは計画やデザインに目が向きがちで、そういったところで頑張りたいというのもわかります。
そこで頑張るのは大いに結構ですが、空振りしてもアウトにならない、つまりは上述してきたような『法』『期限』『コスト』などをしっかり押さえた上で、フルスイングをするとよいと思います。

『法』『期限』『コスト』を例に挙げましたが、他にも様々な与件がそれぞれによってあるはずなので、何が確実に押さえておかなければならない条件なのかをしっかりと見極めて、押さえるべきところを押さえつつ、1番頑張りたいところにフルスイングできる状況をまずは全力でつくってしまうということを意識的に行うことが大事です。
もう1つ。
できるだけ自分の力を削られずにこの状況を如何につくることができるかがどれだけの力でフルスイングできるかに効いてきますので、ここも意識したいポイントですね。

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