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4歳の娘がセミに触れるようになった話

我が家の玄関の横には今、56匹分のセミの抜け殻が入った虫かごが置かれている。4歳の娘と一緒に数えたので、56匹分で間違いないと思う。

セミの抜け殻を触れたことが大きな自信になった

例年よりも長かった梅雨が終わり、夏の強烈な日差しとともにセミが一斉に鳴き始めたころ、彼女はまだセミを怖がっていた気がする。

様子が変わってきたのは、7歳の息子と一緒にセミの抜け殻を拾って遊んだこと。このとき彼女は、セミの抜け殻を探す係で、実際に拾って虫かごに入れる係は息子が担当していたようだ。「ようだ」と書いたのは、そのとき僕は一緒にいなかったので、息子と娘から聞いた話だからだ。

その翌週、息子と娘と妻の3人で「ドラえもん」の映画を観に行く予定だったが、彼女は直前になって映画に行きたくないと言い出した。映画館は暗いから怖いのだという。息子も初めて映画館に行ったとき、同じ理由で号泣したことがあるので、無理矢理連れて行くわけにはいかない。

僕はその日、仕事をする予定だったが、翌日でも何とか間に合わせることができそうなスケジュールだったので、仕事を休むことにした。息子と妻は予定どおり映画を観に行き、娘と僕は別行動することになった。彼女に希望を聞いたところ、公園でセミの抜け殻拾いをしたいという。

この日は僕がセミの抜け殻を探す係で、彼女が実際に拾って虫かごに入れる係。最初はおっかなびっくり触っていたが、しばらくすると慣れてきた。「抜け殻がありましたよ」と報告しても、色や形を確認しながら「これはちょっと割れているからダメですね」などと品定めする。おそらく息子に同じことを言われたのだろう。

彼女が見定めたセミの抜け殻が虫かごの中にどんどん増えていき、いつまでこの遊びを続けるのだろうかと僕が不安になり始めたころ、彼女は満面の笑みで「いくつあるか数えたい」と言った。

公園の日陰にテントを張ってあったので、テントに戻って数えると56匹分のセミの抜け殻が入っていた。「これ、どうするの? 持って帰る?」と聞くと、当然のように深くうなずいた。まあ、別に困るようなことでもないし、そのまま持って帰った。

翌日になると、彼女はセミの抜け殻にまったく興味を示さなくなり、虫かごは玄関の横に置きっぱなしになった。僕は帰宅するたびに虫かごを見てニヤニヤしていた。

本物のセミに触る好奇心と勇気が芽生えた

だが、セミの抜け殻への興味はなくなったが、セミの抜け殻を触れたことは彼女にとって大きな自信になったようだ。

次に公園に行くとき、彼女は「セミに触りたい」と言い出した。それも別に困るようなことでもないし、公園の木に止まって鳴いているセミを探しに行った。今年は本当にたくさんのセミたちが木陰で気持ちよさそうに鳴いており、僕が抱っこすれば彼女でも触れる高さにも見つけることができた。

最初はなかなか触ることができず、「父さんが触って」という時間帯が続いた。僕は「セミは逃げるときオシッコをするんだよ」と説明しながら彼女の目の前でセミを触り、どうやってオシッコをするのか実際に見せてあげた。その様子を彼女はじっと観察していた。

やがて彼女は、自分で触ってみると言い始めた。小さな指をセミに向かっておそるおそる伸ばし、セミの体に指先が触れた瞬間、彼女は「ビクン!」と体を硬直させながらも、「触れた!」と大声で叫んだ。

夏のはじめはセミの抜け殻を触るのもおっかなびっくりだった少女が、夏の終わりには本物のセミを触れるようになった。この成長って本当にすごい。こういう瞬間が見られるのが子育ての最大の楽しみかもしれない。

ただ、セミがすっかり鳴きやんだ9月に入っても置きっぱなしになっているセミの抜け殻はいったいどうすればいいのだろうか。

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