「AIの進化に対して、人は何を備えるべきでしょうか?」と個人事業主のお客さまから訊かれたときの話
AIの進化が凄まじいです。
米Open AIが開発しているChatGPTに代表される「生成AI開発」が世界に衝撃を与えていて、AIは今、新たな歴史的転換期を迎えていると言われています。
これから多くの産業がその変化を受けることは必至で、人がいかにしてAIと共存していくかを真面目に考えなければならない時代が到来したと言えます。
そのような状況下、「AIの進化に対して備えるべきことは何でしょうか?」と個人事業主のお客さまから訊かれました。
ChatGPTのパフォーマンスを(私を含めた)世の中がまだ十分に把握できていないので時期尚早ではありますが、今日はAIの進化に伴って変化する仕事や働き方について、私なりに思うことを書き留めます。
ChatGPTとは何か?
ChatGPTとは米Open AIが2022年11月に公開した対話型AIのことで、質問に対して自然な文章を生成して回答する能力を備えているものです。
検索窓に質問を文章で入れるとAIが文章で回答してくれるのですが、レポートはもとより、小説も書けるそうですし、またプログラミングのコードなども作成してくれるそうです。
たとえば、「マイケルジャクソンっぽい曲を作って!」とお願いしたら、それらしい「新曲」が出来上がってくるそうです(…正確に言えばChatGPTでは作詞を担当し、作曲についてはまた別の生成AIが担当することになります)。
私がテレビのニュース番組で見たデモは「すき焼きの作り方を教えて」という質問に対して、AIがレシピなどをテキストで表示しながら答えるものでした。
ちょっとまだ完成度が低いなぁ〜と思った点ももちろんありましたが、皆がChatGPTを使うことでAIは知識を増やし、どんどん学習を進めて賢くなるのは間違いありません。
また、ChatGPTによって検索のしくみそのものが変わります。
たとえばブログを書いても通常のキーワード検索では引っ掛からなくなりますし、そうなるとそこに広告を出す会社もなくなってきて、ハウツー系のブログサイトは徐々にその姿を消していくことになるでしょう。
教育は「知識偏重」から「創造力重視」へ
ChatGPTが何なのかを知れば、誰もがすぐに思いつくこと、そのひとつは学校などでレポート提出の宿題が出たときにAIに書かせてしまうことでしょう。
知識を問われるものであればかなりいいレポートを書いてくれることは、大学教授たちも認めています。
実際にアメリカの一部の大学では(学生の成果を測れないことを懸念して)ChatGPTでレポートを書くことを禁止しているそうですが、私は教育現場でのレポート提出そのものに意味がなくなると思ってます。
これまでの学校教育(および会社での従業員教育)は知識偏重で進んできました。
しかしその一方で、創造力を伸ばすために何かを変えなければいけないという課題意識もあります。
それをもう待ったなし!の状況にしたのが、今回の生成AI開発の衝撃です。
では、知識偏重から創造力重視にシフトする教育って具体的に何なのでしょう?
私はそのひとつは「問題をつくる力」だと思ってます。
「問題をつくる力」とは何か?
これまでの学校教育を受けてきた社会人の多くは、解決策の質を会社や社会から求められてきました。
ですが、世の中にある「目に見える」問題の多くは既に解決されています。
なのに解決策ばかりがアップデートされる状況が生じ、問題の数に対して解決策が余ってしまって、言わば解決策の渋滞が起きている状況とも言えます。
解決策の渋滞が起きている状況の一例を挙げます。
私たちが買う家電品、たとえば掃除機の吸引力が300ワットから330ワットに進化したところで(壊れてもいない)掃除機を買い換える人ってどれくらいいるのでしょうかね?
その一方で、「そもそも掃除したくない」と思っているユーザーの言葉にならない欲求を上手に捉えたロボット掃除機がヒットしたりします。
ここで言う「そもそも掃除したくない」に対して掃除機の企画開発者たちがどう向き合うか?、それが私は「問題をつくる力」だと思ってます。
「そもそも掃除したくない」と思っているユーザーを「自分たちのお客さまではない」と思ってしまっては問題にすらなりませんが、そこで「なぜ、掃除したくないとユーザーは考えるのだろうか?」と自問しながらユーザーの深い欲求を洞察すれば、その言葉の裏にある、隠れた欲求を見出すことができるかも知れません。
「なぜ、掃除したくないとユーザーは考えるのだろうか?」
…たとえば、共働きの夫婦であれば、夫婦の大切な時間を掃除という行為に奪われたくないから、とか考えているのかも知れませんよね。
そんなときに「夫婦の大切な時間を守ってくれるアイテム」としてロボット掃除機を提案できれば、顧客の潜在的な問題を掘り起こせるということです。
問題を捉え直した上で解決策を提案すれば、「解決策の渋滞」は解消します。
「絵を描くこと」が、将来大人になったときに何の役に立つのか?
ここで教育の話に少し戻ります。
知識偏重から創造力重視へと教育がシフトすることはわかっていても、具体的にその創造力って何なのか?が、いまひとつわからないことが多いです。
「創造力?、たとえば、絵を描く時間を増やしてみるとか?」
…では、その「絵を描くこと」が、将来大人になったときに具体的に何の役に立つのか想像できますか?
「絵を描くこと」であれば、たとえばその前に観察する行為が大切です。
たとえば写真であれば被写体の前でシャッターを切ればそれで完成しますが、絵画はそういうわけにもいきません。
目の前の事実に対して、一度、自分の中で咀嚼する必要があります。
観察して何を感じ、そして感じたことをいかにして表現するか?が問われます。
大事なのは表現の上手い下手ではなく、その表現の元となった「感じたこと」です。
感じて、そこに何かの疑問が生じれば「なぜだろう?」と思考を深めることになりますが、それが創造力を高めることにつながります。
そして将来、大人になったときにそれは「問題をつくる力」になることでしょう。
知識偏重から創造力重視へと教育がシフトするにあたって、私なら「なぜ?」に出会う機会を教育の中で増やすことから始めてみます。
ちなみに、Open AIは「絵を描くAI」も開発しています。
でも気にしないでください。
与えられた条件に沿って、引き出された知識を構成して表現しているにすぎませんから。
知識偏重のAIがそれらしき絵を描けること自体は、ある意味、凄いのですが。
AIの進化に対して備えるべきことは何か?
ここでようやく本題に入ります。
「AIの進化に対して備えるべきことは何でしょうか?」と個人事業主のお客さまから訊かれたことについてお答えします。
まず、前述のとおり、解決策ばかりを追っても既に解決されている問題を繰り返し扱うだけに陥りがちです。
その意識のままだと、AIに正解を求めるようになります。
そもそも絶対的な正解を自社(またはコンピュータ)の中だけで追っても、そこにはありません。
AIの進化に対して備えるべきことは、「正解は顧客の心の中にある」という意識を持って行動に起こせることでしょう。
すなわち、心の扉にはどんな鍵がかかっているのか?を問うのが「問題をつくる取り組み」であり、その心の扉を開けるにはどんな提案をすればよいか?を考えるのが「解決策をつくる取り組み」です。
創造力がないとできないことです。
これらのタスクは、まだAIには代替されないでしょう。
AIとの協働を考えるのであれば、知識偏重のAIと対話したり制作の途中作業を代替させたりしながら、人は思考を深めて創造力を伸ばしていくなんてことは十分にありえる未来です。
むすび
今日はChatGPTが与えた衝撃について、私なりに今思っていることを書いてみました。
私自身、中小企業診断士という国家資格を持っていますが、それは、問題を解決できる適切な知識を備えているか?、またその問題に直面したときに適切な知識を引き出すことができるか?、を問われる資格です。
知識が問われる資格ですが、状況によって適切に知識を引き出すのは人の判断によるものなので、100%知識偏重ではありません。
ですが、これはある程度はAIに代替されるでしょう。
なぜなら、扱うべき問題についてはまだそんなに深く問われてなく、また、正解とみなされる知識も(問題を正確に理解できさえすれば)パターン化されるからです。
これからは「そもそも何が問題なのか?」、その審美眼がより強く求められる時代になっていくことと思います。
そのためにも、あらためて「創造力とは何か」を自問自答していただくのもよいのではないでしょうか?
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