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「未来へ」の現在地を考えたい件

2022年の名古屋グランパス

 2021年をもって、J2降格後のグランパスに多くの優秀な選手達と(良くも悪くも)多くの話題をもたらした(?)大森SDが退任。今季からは山口GMがチーム編成の最高責任者となりました。
 山口GMのミッションの1つは、「クラブの持続可能性」を目的とした「世代交代」。新監督には「若手の育成に定評がある」と語った長谷川健太監督が就任し、またこの事を意識したかどうかは分かりませんが、「未来へ」というスローガンを掲げました。

 さて、その「世代交代」の状況はどうでしょうか?今回はそれを考えてみます。

素さんの言う「世代交代」と、今のところの成果


 世代交代と一口に言っても、なんとなく抽象的です。ただ、山口GMは、(一旦)「アカデミー出身の選手がトップに定着して中心選手になる(そして長くチームを支える選手になる)」という絵を描いているようです。

 そこで、ユース上がりの選手たちについて振り返っていきましょう。
 まずはなんといっても藤井の一人立ち。完全に最終ラインのスタメンを勝ち取ったと言って良いでしょう。元々ポテンシャルは評価されていましたが、出場機会を継続して得たことで自信が高まり、加速度的に成長を続けています。甲田は怪我で離脱しましたが、それが無ければ安定してメンバー入りし、カップ戦ではスタメン起用も少なくなかったはずです。また主力定着とまではいきませんが、石田もリザーブを中心にチャンス得ています。ただし、前線では永井とレオナルドの加入、右サイドでは永木と重廣の加入(のおかげで宮原を右サイドに特化させられる)によって立場が難しくなっていくかもしれません。
 一方で、昨年までは藤井よりも評価を得ていた成瀬は対照的に、安定して出場機会を得ることが出来ず、武者修行の道を選びました。本人としてはやはり、オリンピック出場というのが頭にあったと思われます。また温紀、豊田(そして晃)についてはかなり起用に慎重になっています。3人合わせてリーグ戦出場は実質0分です。
 こうして客観的に見ると、いわゆる若手で主力の座を間違いなく掴んでいるのは藤井だけ、と言わざるを得ません。

とはいえそんなに簡単なことじゃない

 というように、一抹の不安を感じるのもわからなくもないですが、個人的には焦ってはいません。というのも、下部組織の強化と、その結果としてのトップチームへの戦力供給というのは、戦術の落とし込みと同じように、想像以上に時間のかかる課題だと考えるからです。
 例えば、個人的に興味深いと感じたのが以下の記事。

 簡単にまとめると、
・10年計画で下部組織をソフトとハード両面から強化
・その結果、欧州有数のアカデミーに
・しかし、13年経っても「育成した選手が他チームに流れる」という課題が積み残されている(投稿された2017年時点。現在はマウントやジェームズなどが主力に定着している)
 というものです。
 この件は、
・(競争環境が全く違うため単純比較はできないが)トップレベルの資金力を持ってしても、数年単位では成果が出ない
・「せっかく輩出した人材が他クラブに流れる」というフェーズが発生する

 ということを示唆しています。山口GM以下グランパスのスタッフも、このようなことは折り込み済みのはずです(そうであって欲しい)。
 とすれば、グランパスの下部組織への「投資の開始」をどのタイミングだと定義するかは難しい問題ですが、山口GMが発しているのは「そろそろ投資回収も考える時期に入っていこう。今年をその初年度にしよう」というメッセージだと捉えるのが良いのかもしれません。

 また、「若手の起用に積極的なクラブ」と一口に言っても、多くのタイプがあります。「その余裕がある」「自然にそうなる」なら問題ありませんが、選手が次々に移籍してしまう、あるいは今いる選手が実力不足で「そうせざるを得ない」なら話は別です。
 稲垣が温紀に、仙頭が豊田に、森下が甲田にいとも簡単に取って代わられるとして、それはチームとしては健全な状態と言って良いのでしょうか。

あえて言うとすれば

 このように、個人的にはそんなに単純なものでもなければ簡単に成果も出ないし、そんな中で藤井がスタメンに定着し、カップ戦やエリートリーグを上手に使っている現状は「初年度」としては少なくとも及第点以上なのでは?と考えています。ただし、あえて批判的に見るとすれば、以下の2点は気になる所です。

1.アカデミー選手の登用は「目的」よりも「手段」に近い
 批判というよりも、懸念に近い部分です。チームやその時の状況によって濃淡こそあれ、アカデミーからの昇格(あるいは出戻り)、外国籍含めた即戦力補強、他チームからの有望株の青田買い、あるいは高体連・大学からの新卒獲得がいいバランスで組み合わされての「継続的に力をもつチーム」ができると考えます。言い換えれば、アカデミー選手はあくまでチーム作りの手段の1つです。山口GMがアカデミーの仕事をしていた時から目をかけている選手が可愛いのはもちろんわかりますし、昇格選手の実績が乏しいことによる反動というのもあり得ると思いますが、どうかそこを間違えないでいただきたい。まして「どうせあそこはアカデミー上がりが幅利かせるんだろ」などと思われてしまっては、獲りたい選手も獲れなくなってしまうかもしれません。

2.「世代交代」のグランドデザイン
 既に書きましたが、世代交代は長期的な視点が必要。であれば、チームの考える「長期的」とは何年ぐらいなのか、そしてその間にどのようなマイルストーンを置くのかetcを、可能な限り提示してほしいと思います。例えば今季既に永井、永木、レオ・シルバという3人の30代の選手を獲得しています。もちろん3人とも卓越したプレーをしていると感じますが、こうしたある種「世代交代」と相反する意思決定に対して、説得力を失ってしまうからです。
 もちろん1番に挙げた点同様に、他のチームの選手からの見られ方というリスクはありますし、不確実性も高く難しい部分は少なくなさそうですが・・・。

最後に

 倍井謙選手、三好ヶ丘にてカムバックをお待ちしています。

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