現代社会における宗教について
近頃、私の最寄りの駅で宗教の勧誘がとても増えているなあと感じました。当然こういうご時世なのだから、まあ、宗教に縋る人も出てくるわけだし、別にその人を否定するつもりはありません。
ただ、宗教って今の社会でどういう役割を果たしているのだろうかということをもう一度考えてみようとふと、思いました。
太古の昔からあると言われている宗教と言われるものですが、この大変な現代社会に生きる我々にとって、宗教ってなんなのだろう、ということをこれを読んでいいただいてくださる皆様と考えていこうと思います。
というわけで今回の雑記では、宗教について少し深掘りしてみます。
1.宗教生活と未開民族
まず、宗教の社会的役割を考える上で取り上げたいのは、レヴィ・ストロースやデュルケームといった、古典人類学や古典社会学における宗教の考え方です。
レヴィ=ストロースは『構造人類学』、デュルケームは『宗教生活の原初形態』という有名な本の中で、トーテミズムという概念を打ち出し、宗教における社会的役割を問いています。
彼ら二人に共通しているのは、未開民族の宗教の原型には、トーテミズムが根底にあるという主張です。トーテミズムとは、ある特定の植物や動物、石像と人間に神秘的な宗教関係があるという意味です。
今でも、こうしたトーテミズムは活きているといえます。例えば、8月6日、原爆を落とされた日に、平和記念日として鳩を放つという儀式があります。あれは、動物である鳩を平和の象徴として捉え、空に解き放つことで、世の中の永久平和を一生守り続けるというメッセージであるということがわかると思います。
また、先祖の墓参りもトーテムの一種です。お墓という、言ってしまえば石の塊に、亡くなった方の魂がそこに眠っていて、そうした魂にお祈りを捧げる。
このように現代社会でも、トーテミズムは大きな社会的役割をもっているので、未開民族が残したトーテミズムは偉大と言えそうです。
2.宗教という儀式が民族の絆を生み出す
かつて、アメリカの社会学者ロバートキングマートンは、社会の構造には表向きの「顕在的機能」があるだけではなく、裏の機能として「潜在的機能」があると叙述しました。よく社会学的には、社会のなにかしらの機能的役割には、必ず裏の機能がついて回っている、と謳われています。
また未開民族の例をとってみましょう。アフリカのとある民族は、周りの植物や食物の豊作を願って、雨降らしの儀式というものをするそうです。
この雨降らしの儀式をすると、100%必ず雨が降ると言われています。どうしてでしょう。それは、「雨が降るまで踊り続けているから」です。
「雨が降るまで踊り続ける」なんて、側から見たらとても奇妙で面白いものに思えてしまうかもしれませんが、なぜこの未開民族は、雨が降るまで踊り続けるのでしょうか。
その理由は私が思うに、こうしたスピリチュアルな儀式を通じて、雨を降らせるという表向きの機能だけではなく、民族同士の絆や繋がりを深める目的が裏にあるのではないか、ということです。
宗教という、一見奇妙なものですが、こうした儀式には民族の結束や考えの統一など、民族社会を形成する上で、欠かせないものである。実は、こうした流れで、宗教が国や社会を作ったという話になるのですが、ここではそれは述べないでおきます。
宗教というのは、民族の絆や結束を深めるための大きな役割を担っているといえます。
3.宗教を内面化する
現代社会における宗教という話で、ここまで少し遠回りをしてしまいました。ここで、現代の宗教のあり方について、少し考えてみようと思います。
特に日本社会においては、こうした民族的な儀式は先ほど述べたトーテミズムぐらいかと思います。
しかし、宗教というとこうした民族の絆などの役割だけではなく、自分自身に内面化することで、自身の生活を明るく照らす役割ももっていると言えそうです。
どういうことかというと、例えば女性の方に多いのですがヨガというものがあります。こうしたヨガというのは、「太陽の恵みを」などと言って、太陽を信仰対象としてそれを自身に内面化しているということです。
現代社会においての宗教の大きな役割はこうして、宗教のマインドを自分の中で溶かしていくことで、人生に前向きになれたり、活力を見出すという側面が大きいと思います。
こうした大変な世の中で宗教に縋るというのは、結局自分自身の心へのオアシスが欲しいということ。要は、ヨガの太陽礼拝といった宗教的なものというのは結構自分自身の身近にあると言えそうです。
こうした苦しい時代だからこそ、何か自分にとってのオアシスを見つけれられるといいなというお話でした。
参考
エミール・デュルケーム『宗教生活の原初形態』岩波書店.
レヴィ・ストロース『構造人類学』みすず書房.
ロバート・キング・マートン『社会理論と社会構造』みすず書房.
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