転職と社畜と一喜一憂

今の仕事に勤めて4年になる

車のトランスミッションを作る会社で、アルミ部品の加工をやっている

今年の春まではプラネタリギヤの組立を担当していたが、そちらの部署がラインを半分解体するとの事で、アルミ加工区へ部署異動したのだ。

アルミの加工は、プログラムを組まれたマシンニングという設備がやってくれるので、私は定期的に部品の検査をやって、不良品ができていないかを確認するだけなのだが

このマシンニングという設備がしょっちゅう故障するし、部品を削ってる刃物の交換なんかがあったりすると結構忙しくなる

残業も3時間半やれば半日は会社に拘束されている事になる。そう、私は所謂「社畜」だ。

4年前に今の会社へ転職した

前職は自転車専門店で働いていたのだが、給料が安く、生活が苦しかったのが転職の理由だ。

今の会社に勤めて1年で、自転車専門店の年収の倍を稼ぐ事ができた

今まで我慢していた贅沢ができて、欲しかった物も買う事ができるだけの収入を得る事ができた。

しかし仕事はハードだし昼夜勤務で生活リズムはめちゃくちゃだし、職場環境は悪いしでストレスがひどく溜まり

最初の2年はいつもイライラして心が穏やかでなかった

イライラだけならましだ、時にとても悲しくなったり孤独感を感じる事もあった。

とにかく心を病んでいた。

年収が倍になった代償はとても大きかった様に思う。

しかし転職して2年が経った頃、アメリカと中国が貿易関係で小競り合いを始め

その影響で減産となり、しばらく仕事が暇になった

会社に出勤しても掃除以外やることがなく、毎日3時間残業していたのが嘘だったかのように定時上がりの日々が続いた。

収入はガクンと減ったが、ストレスも同じくらいガクンと減った。

転職する前までとはいかないが、人間らしい心を取り戻すための期間としては充分だった。

1ヶ月ほど定時退社の日々は続いた

それ以降も3ヶ月程度は夜勤が無くなり、精神面は大分穏やかになっていった。

そんな平穏な日々も長くは続くはずがなく、年明けからは生産が元に戻り、また忙しい日々に飲み込まれて行く

はずだった

年明けの僅か3ヶ月後には、コロナウィルスの発生により、会社は再び減産の危機に陥った。

忙しかったのも束の間、閑散期はすぐにやってきたのだ。

今回は掃除ばかりではなく、工場のペンキ塗り等の補修もいくらか行った

それでもやはり毎日定時退社で収入は減った。

私はこの頃初めて、自分の転職が失敗だった事に気がついた

今の会社の忙しさがピークの時、大量募集された求人に乗っかって転職を成功させたは良いが

忙しさのピークというのは山の頂上と同じで、それ以上が無いという事なのだ。

だから米中貿易摩擦でガクンと生産が減った時、工場内には仕事を持て余した人が大量に溢れ

コロナ禍に陥った時は派遣社員を全て雇い止めして難を逃れた様に見えたが

実際は正社員が増えすぎてコストがかかり過ぎる体制に、会社はなっていたのだ

忙しさのピークにいた時は、これから坂を転がり落ちるだなんて経営層は思いもしなかったであろう

しかし現実問題、米中貿易摩擦により、コロナショックにより、会社は坂を転がり落ち始めた。

それに追い討ちをかけるように、欧米が掲げた「自動車の脱炭素規制」ガソリン車の販売を将来的に禁止するという公約

坂を転げ始めた会社に鞭打つ仕打ちだ。

もう一度陽の目を見る事を世界が許さなかった

これがまだ、トランスミッションだけでなく車体を作っている会社だったら話は別だったのかもしれないが

トランスミッションはガソリン車にこそ必要なものであり、モーターで駆動する電気自動車には必要のない部品なのである。

いずれ私の会社でもモーターを作る仕事が主幹になってくると考えられるが

トランスミッションを作る工程に比べ、モーターには人の手がかからない。

忙しさの絶頂期にトランスミッションの増産を生産計画に入れ、人を大量に増やした会社の将来が明るくないことは目に見えて明らかだ

これから人の手がどんどん余っていくこの会社を冷静に見つめた時、私の転職は失敗であった事に気づいた

忙しさのピークは山の頂と同じなのである

もしも4年前、「収入」などという目先のお金に目がくらんで転職をしていなければ

私は今頃、自転車専門店の店長にはなれていただろう。

それでも収入は今より少ないが、好きな事を仕事にして楽しく生きてた事を思えば、一時の貧しさを下積みと捉えて耐えれば

今よりずっと、幸せな毎日が送れていたのかもしれない。

失敗とは、最高の人生経験である

私が今回得た失敗は、山の頂に居る者に着いていくな、山を登り始めた者について行け

という事である。

好きな事を仕事にしていれば、「社畜」だなんて自分を卑下することはない。

下積みを重ねる事で、人は大きくなれるのだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?