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Love or Prison #2 【蟹座の物語】

疲れし者、貧しき者、体を寄せ合い自由の
息吹を乞う群衆たちを私に与えよ
押し寄せる高波に拒絶され
打ちひしがれた者たちよ
家なき者、大嵐に打ち上げられた者を
私の元に送りたまえ
私が灯りを掲げよう
輝ける未来への扉の隣で

Give me your tired, your poor,
Your huddled masses yearning
to breathe free,
The wretched refuse of
your teeming shore
Send these, the homeless,
tempest-tossed to me,
I lift my lamp beside the golden door!

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自由の女神像の台座には、このような文章が書かれている。
これは、ユダヤ系アメリカ人の女性詩人エマ・ラザラス(♋︎)による『The New Colossus』というソネットの一節である。

女神の足元には、引きちぎられた鎖と足枷が散らばっていて、それは全ての人々の抑圧からの解放を意味している。
右手で高く掲げるのは、ゴールデンゲートを照らす松明。
ゴールデンゲートとは、移民を歓迎し、全ての人々が平等に幸福を追求できる開かれた扉のことである。
そして左手に抱く銘板には、はっきりとその日付が記されている。

『July 4th MDCCLXXVAI』
(7月4日1776年)

自由の女神像は、アメリカの独立100周年を記念して、アメリカ独立に大きく貢献したフランスから、人々の募金によって贈呈されたものである。
この像は、自由の象徴であると同時に、アメリカとフランスの友愛をもあらわすモニュメントでもあるのだ。

アメリカ建国の歴史は、イギリス国教会による弾圧から逃れようとした清教徒たちが、アメリカへ渡ったことに始まる。
清教徒たちは、66日に及ぶ困難な航海の末、現在のマサチューセッツ州、プリマスにたどり着いた。
彼らは、それぞれの夢や希望を抱いて、アメリカという新天地を目指した。
そんな彼らが抱いた夢や希望こそ、その後、延々と連鎖していく「矛盾」の起源でもあった。

彼らが上陸した土地には、王や貴族の代わりに、その地に先に住まう人々が存在していた。
清教徒一団がアメリカに辿り着いたばかりの頃、彼らは先住民たちの助けを借りて生きのびることができた。
しかし、その後移民がどんどん増え続けると、先住民たちは、土地を奪われたと訴えるようになり、両者の間で争いが勃発した。
やがて、入植者たちは先住民を追いやって、東海岸に13個のイギリス植民地を誕生させた。
現在のアメリカ国旗にも見られる、13本の赤と白のストライプは、この時の13個の植民地を表している。

その後、次第に入植者たちの間で、アメリカをイギリスの植民地ではなく、新たな国家として独立させたいという意識が高まっていった。
そして、イギリス本土からの高い税金に対する人々の不満が爆発し、ついに独立戦争が勃発した。
アメリカの独立軍には、フランスも肩入れし、イギリス対アメリカ+フランスという構図の戦いとなった。

アメリカ独立軍は勝利を治めると、1776年7月4日に、アメリカの独立宣言が発表され、近代史上初の共和制国家(民主主義国家)が誕生した。

共和制とはつまり、神に政治を託された王が国を統治するのではなく、人民の中から人民によってリーダーが決められる体制のことである。
また、アメリカには国教が定められず、人民には信教の自由が保障されたのも、非常に画期的なことだった。

しかし、独立宣言で、自由、平等、友愛をうたっている一方で、入植当初よりアフリカの人々を強制的に奴隷として連行してきたり、先住民の権利が顧みられなかったりと、人種差別が公然と容認されており、女性の社会的地位も非常に低かった。

また、表向きは信教の自由を掲げながらも、独立宣言において、「偉大な創造主の下に我々は平等である」とキリスト教をほのめかす言葉があったり、今だに公式な場所で”God bless America”というフレーズが使われているように、アメリカには無意識的にキリスト教の要素が散りばめられている。

こうした「矛盾」は次々と指摘されていくことになる。
黒人の解放運動、人種差別の撤廃、フェミニズムの台頭、宗教の自由の訴え…。

たとえ言葉だけでも、アメリカの成り立ちにおいて、自由、平等、友愛という理念を掲げておいたことは大きい。
この理念が人々に根付いているからこそ、アメリカでは、何か「矛盾」が生じてくると、必ずそれを指摘する勢力が人民の中から現れるようになっているのだ。
次々と問題点にツッコミが入れられ、様々な主義主張が表現されていく。
アメリカは、こうして多様性が育まれ、社会全体が活性化されているのである。

アメリカの共和的な根幹も、次々と現れる対抗勢力も、どちらもとても蟹座的なものだと私は思っている。
一般的に、蟹座=保守的(Conservative)と見られがちであるけれど、ただ伝統や慣例に固執するというのではなく、自分の愛する者や仲間を「守護する」という精神こそが、蟹座の保守性である。
従って、蟹座には、大人しくて従順なタイプのひとよりも、アクティブなひと、もしくはアグレッシブなひとが多いように思う。

また、蟹座=排他的でも決してない。
派閥も主義も、多様性の中から生じるものであり、それらこそが、紛れもなく多様性の一部である。
蟹座の人々は多様性というもの、つまり、世界が「自分の好きなものばかりではない」ということをよく知っている。
だからこそ、自分の「愛するもの」をより一層愛そうとするのだ。

蟹座の人々には、「愛するもの」の為に闘い抜く覚悟がある。
また、自分や「愛するもの」の居場所や立場を明確にして、それらを好まざるものから遠ざけるよう「ゾーニング」する、そんな闘わずして守る知恵だって彼らにはあるだろう。
いずれにせよ、蟹座の本質は、他者を拒むことではない。

愛するものを抱きしめるということ。
そして、自らの熱をそれに与えること。

Blonde Redheadの『Love Or Prison』という曲は、とても美しい蟹座のテーマソングだ。
カズ・マキノ(♋︎)の声は、儚く、壊れやすそうでありながら、切実に訴えかけてくる強さが感じられる。
彼女の声は澄んでいるようでいて、透明ではなく、そこに不純さや一種の不浄さのようなものを宿しているからこそ、尋常ではない凄みが感じられる。
それは、夕焼けが、雲という不純物が空に混ざることによって偏光し、異様な美しさを作ることと同じである。

曲中、彼女は何度も問いかける。
「これは、愛なのか、牢獄なのか?」

誰かにとっての正義が、誰かにとっての悪であるように、好きが嫌いと表裏一体であるように、愛から差別が生まれてしまうということに、抱きしめることで縛ってしまうということに、そして、それら全ての矛盾に筋を通したいがために、蟹座は、最も繊細でありながら最も強くあろうとする。
だから、この曲は最後、このように締めくくられる。

This is love.


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