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孤立林で人間を避けられず? 山菜採りの女性が母グマに襲われ死亡|北海道|平成22年

本記事は書籍『日本クマ事件簿 〜臆病で賢い山の主は、なぜ人を襲ったのか〜』(2022年・三才ブックス刊)の内容をエピソードごとにお読みいただけるように編集したものです。


はじめに

本稿では、明治から令和にいたるまで、クマによって起こされた死亡事故のうち、新聞など当時の文献によって一定の記録が残っている事件を取り上げている。

内容が内容ゆえに、文中には目を背けたくなるような凄惨な描写もある。それらは全て、事実をなるべく、ありのままに伝えるよう努めたためだ。そのことが読者にとって、クマに対する正しい知識を得ることにつながることを期待する。万一、山でクマに遭遇した際にも、冷静に対処するための一助となることを企図している。

本稿で触れる熊害ゆうがい事件は実際に起こったものばかりだが、お亡くなりになった方々に配慮し、文中では実名とは無関係のアルファベット表記とさせて頂いた。御本人、およびご遺族の方々には、謹んでお悔やみを申し上げたい。

事件データ

  • 事件発生年:2010(平成22)年6月5日

  • 現場:北海道帯広市

  • 死者数:1人

夫婦で二手に分かれるが
時間になっても妻が戻らず

2010(平成22)年6月5日午後3時40分ごろ、音更町の主婦・T(66歳)は夫のRとともに山菜(コゴミ)を採るため、帯広市広野町の雑木林に入った。

そこは、道道清水大樹線沿いにある広野会館の北側約150m。この道は主要道のため、貨物運送のトラックの往来も多い。

その雑木林は隣接する幅50mの防風林と合わせて約150m四方の広葉樹林になっており、周囲は小麦畑などに囲まれた、農家が点在する地帯。地面はまばらな草木の生えている場所と笹が密集している場のほか、10m四方ほどのコゴミの密生地がいくつか見られる。

T夫婦は、午後4時に待ち合わせる約束で別々に林に入ったが、時間になっても妻が戻らず、不審に思った夫が探しに行ったところ、コゴミの密生地でうつ伏せに倒れているTを発見。午後4時5分過ぎ、警察に通報するもTはすでに死亡していた。

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