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劣悪飼育のクマ牧場でついに…飢餓ヒグマが従業員を襲う|秋田県|平成24年

本記事は書籍『日本クマ事件簿 〜臆病で賢い山の主は、なぜ人を襲ったのか〜』(2022年・三才ブックス刊)の内容をエピソードごとにお読みいただけるように編集したものです。


はじめに

本稿では、明治から令和にいたるまで、クマによって起こされた死亡事故のうち、新聞など当時の文献によって一定の記録が残っている事件を取り上げている。

内容が内容ゆえに、文中には目を背けたくなるような凄惨な描写もある。それらは全て、事実をなるべく、ありのままに伝えるよう努めたためだ。そのことが読者にとって、クマに対する正しい知識を得ることにつながることを期待する。万一、山でクマに遭遇した際にも、冷静に対処するための一助となることを企図している。

本稿で触れる熊害ゆうがい事件は実際に起こったものばかりだが、お亡くなりになった方々に配慮し、文中では実名とは無関係のアルファベット表記とさせて頂いた。御本人、およびご遺族の方々には、謹んでお悔やみを申し上げたい。

事件データ

  • 事件発生年:2012(平成24)年4月20日

  • 現場:秋田県鹿角市

  • 死者数:2人

少人数で34頭のクマを飼育
廃園が決定した直後の事件

事故が起きたのは、秋田県鹿角かづの市にあった1987(昭和62)年開園の観光牧場「八幡平はちまんたいクマ牧場」。

場所は、十和田八幡平国立公園・八幡平地域そばの国有林内。鹿角市中心街から南へ約30km離れた山間部で、施設は国道341号沿いにあった。

そこにはヒグマ、ツキノワグマ、コディアックヒグマが合計34頭展示され、クマの飼養場が複数あり、入園料は大人500円、小学生以下300円、園内ではクマのおやつ販売なども行っていた。

豪雪地帯ということもあり10月下旬から4月下旬までの冬期は閉園。この冬期閉園中に事故は起こり、しかも経営悪化により秋には廃園が決まっている矢先の出来事だった。

34頭の管理は、女性従業員T(75歳)とS(69歳)、男性従業員U(69歳)のたった3人で行っていた。

20日午前8時ごろ、3名は牧場に出勤し、事務所でテレビを見るなどして30分ほど過ごした後、女性従業員二人がクマたちにエサを与えていた。

その後、男性従業員Uは通路を除雪していた。午前9時30分ごろ、Tの「クマが逃げた!」という叫び声が聞こえたので、男性従業員Uが飛んで行くと、Tがクマに襲われ噛みつかれている、という状態だった。

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