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北海道エゾ鹿対策最新事情 〜 エゾシカの個体数指数管理

本稿は『けもの道 2016特別号』(2016年刊)に掲載された記事を note 向けに編集したものです。掲載内容は刊行当時のものとなっております。あらかじめご了承ください。

文|酪農学園大学 伊吾田 宏正


エゾシカの個体数指数管理

ここ数年、エゾシカの個体数は減少傾向と言えそうだ。

北海道が招集する研究者などによる「エゾシカ保護管理検討会(現在の名称は『エゾシカ有識者会議』)」が毎年公表している「エゾシカ個体数指数」が、ここ数年減少傾向にあるからだ。

「個体数指数」というのは、少し馴染みのないものだが、「個体数」そのものは、現代の最新科学をもってしても推定が困難である。

緑が豊富で地形が急峻な我が国のような環境において、森林性の動物の個体数を正確に推定することは非常に難しい。当然、人間や家畜のような住民票や登録制度が野生動物には無いのである。

エゾシカの場合は、毎年秋にライトセンサスと呼ばれるカウント調査が行われている。これは、殆どの市町村単位で行われているが、それぞれ10kmほどの決まったルートを夜間に車でゆっくり走行し、スポットライトを照らして道路の左右のシカを数えるというものだ。牧草地などには時に数十頭の群れが出没している。

ただし、天候等によりシカの出没状況は変わり、カウント数が必ずしも正しい個体数を反映しているとは限らない。

このように、「不確実性」を伴うデータを扱うため、「個体数」そのものではなく、統計学的な手法によって、「個体数」を間接的に表す「指数」を推定し、それを基に個体数の増減を把握しようとしているのだ。なお、指数の推定には、他に捕獲数もデータとして使用されている。

エゾシカは減少した?

ともかく、北海道東部(釧路、十勝、根室、オホーツクの各管内)の個体数指数は、平成5年を指数100として、平成8年頃に指数140まで増加し、その後、狩猟規制の緩和や有害駆除の奨励で、平成13年には指数110まで減少した。

しかし、結果的に対策の手を緩めてしまったため、再び増加し、平成22年には、指数160近くまで達したが、その後の対策により、平成27年には二十数年ぶりに指数100を下回り、92±30 と推定されている。

前述のように、個体数推定には不確実性が伴うので、このように、ある程度推定の誤差を含んだ形で示される。

一方、北海道西部(石狩、空知、上川、留萌、宗谷、胆振、日高の各管内)では、平成12年を指数100として、指数は平成23年ごろまで年々増加し、指数280以上まで達したが、その後減少に転じ、平成27年には 247±75 と推定されている。そして、北海道南部(渡島、檜山、後志の各管内)は、平成23年を指数100として、一貫して増加しており、平成27年には 190±60 と推定されている。

ちなみに、西部や南部で指数の推定が東部と比べて遅かったのは、ライトセンサス調査が開始されたのが西部では遅かったからである。

とはいえ、指数といっても実際にはイメージがしづらい。エゾシカ保護管理検討会では同時に「個体数」そのものの推定もしている。

平成27年10月時点において東部で18万〜37万頭、西部で19万〜46万頭、南部で2万〜8万頭の間とされている。

エゾシカ管理計画

さて、これまで見てきたように、エゾシカは全体としては概ね減少傾向と言えそうだが、前記の指数は社会的にどのような意味を持っているのだろうか?

北海道では、平成8年からエゾシカの管理についての計画を策定している。現計画は「第4期エゾシカ管理計画」といって、今年度で期間が満了する。

その地域別の管理目標としては、平成28年までに、東部で指数50、西部で指数200とするというものだ。これは、農林業被害等の人間との軋轢をある程度軽減させるために設定された数値目標である。

これまでの状況からすると、期間内に目標値までエゾシカを減少させるのは厳しいと言わざるを得ない。

なお、次期の第5期計画の策定の準備も進められている。計画期間の5年間の中で、東部では指数50以下に、西部では150以下に減少させるという目標設定の方向で現在検討が進められているようだ。

まだまだ多い被害

それでは、このようにまだまだ過剰な個体数と言えるエゾシカによる被害はどのようなものだろうか?

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