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狩猟の事故例と変遷と、変わらない本質

本稿は『けもの道 2019秋号』(2019年9月刊)に掲載された特集記事『狩猟事故・事件を防ぐ』を note 向けに編集したものです。掲載内容は刊行当時のものとなっております。あらかじめご了承ください。


はじめに

「変わらぬ大自然」という言葉を目や耳にすることがあります。しかし、諸行は無常であり、変わらぬ自然などなくて、むしろ変わるからこそ自然なのではないかとも思います。

近頃は、年齢を重ねていくことと時代の変化には逆らえないと思うことがよくあります。渉猟中、跨いだと思った倒木や木の根に躓いたり、30分で着くはずの放犬場所に35分かかったりしたときに特に痛感します。いったんは落ち込みますが、これも自然の成り行きと受け入れることにして、別のことでカバーするしかないと開き直ります。

現在のこの国における狩猟を取り巻く状況も、一昔前と比べるとずいぶん様変わりしたように思えます。わずか25年程前、私が犬を連れて山に入り始めたころと比べても顕著に感じます。

これも時代の流れかと思いますが、これについてはなかなか受け入れがたいことも多々あり、時代に逆らっても勝てるものではないと頭では理解していても逆らいたくなる自分が一方で確実に心の中に存在しています。

文|羽田健志

原因別に見る狩猟事故と具体例

環境省により、狩猟事故の件数や態様についてはデータ化され公表されている。

平成10年度から平成28年度までの19年間で、狩猟や許可捕獲等に伴い発生した事故件数は約1500件で、死亡者は約150名、重傷者は約540名に上る。公表されているデータは都道府県からの報告などをもとに集計されているので、実際の事故件数などの数字はこれより少し多くなると思われる。

※環境省発表資料を筆者独自に集計したもの。 ※誌面の都合上、数字は死亡・重傷・軽傷および自損・他損の別なく合計したもの。

近年は鳥獣被害の増加により、なかば仕事のように捕獲をせざるを得ない状況もみられるが、多くの人にとって、狩猟は趣味であると思われる。趣味でこれほど命を落としたり重傷を負ったりするようなものは他にそう多くはない。

発生件数の多い順(平成10年から28年度までの間の合計)に事故を原因別に、具体例を交えて見てみよう。なお、本稿における事故内容の分析は、環境省発表資料を元に私が独自に行っているものである。

転倒(413件)

転倒そのもので亡くなる方の割合は少ないが、転倒から暴発につながるケースがあるので、件数の多さからみても脱包確認の必要性がうかがえる。

銃による事故(317件)

銃による事故のうち自損は98件で死者25名、その多くの原因が暴発である。また、他損219件のうち矢先の不確認と誤射が原因の8割を占めている。他損事故の死者は37名であるが、狩猟者が他人を死に至らしめているという点でこの数字は大きな意味を持つ。

銃による事故の件数は事故全体の20%程度だが、マスメディアにより大きく取り上げられ、社会に与える影響も大きい。また他の事故に比べ圧倒的に他損が多く、被害者、加害者及び周囲の人たちのその後の人生にも大きく影を落とすことになる。くれぐれも安全管理と細心の注意が必要である。

猪による事故(240件)

猪による事故240件のうち、わなにかかった猪が通り掛かった人を咬むなどの他損事故が9件ある。猪による事故の多くは半矢やわなにかかった猪による逆襲である。特に近年、わなにかかった猪による事故が増加傾向にある。

銃猟で捕獲された雄の猪だが、左前脚にはちぎれたワイヤーが食い込んだまま生き長らえていた。わな猟師が見回りに来る前にワイヤーをちぎって逃げたのだろう
くくりわなに掛かっているとはいえ、野生の猪の力を決して見くびってはいけない

また、この数字には含まれていないが狩猟や捕獲に伴わない一般の事故も多く、平成28年度から令和元年5月までに158件196人の人身被害が報告されていて、死亡事故も発生している。これにはいわゆる違法わな等が原因になっていることも見受けられる。

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