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狩猟界の風雲児「猟協」とは何だろうか

本稿は『けもの道 2019春号』(2019年4月刊)に掲載された記事を note 向けに編集したものです。掲載内容は刊行当時のものとなっております。あらかじめご了承ください。


狩猟界に常に新しい風を吹き込んで来た「猟師工房」(埼玉県)の原田祐介さんと、株式会社TSJ(奈良県)の仲村篤志さんが中心となり、2018年8月、一般社団法人猟協という新たな組織が誕生した。

鳥獣捕獲事業や捕獲個体の利活用推進、若手ハンターの育成など、今後の狩猟業界をより活性化させていくのがコンセプトだという。

果たして “猟協” とは何なのか? 現在拠点となっている千葉県君津市に足を運び、詳細をレポートする。

一般社団法人猟協
【代表理事】原田祐介 【本社登記住所】千葉県君津市清和市場字吾妻433-1 【電話】042-978-5801 【Webはこちら

取材・文|安藤 “アン” 誠起

狩猟の産業面と文化面を支えていくには?

猟師工房は、2015年に埼玉県飯能市に原田さんが立ち上げた、いわば “狩猟専門店” (認定鳥獣捕獲等事業者でもある)で、野生鳥獣の生態調査や捕獲を請け負うほか、肉の解体・販売、わなの製作講座などの狩猟系イベントの開催などを業務としてきた。実際に店舗を訪れた人は、工房の内壁に飾られた鹿のトロフィーの数々に目を奪われたはずだ。

しかし、約3年間運営し、原田さんにはどうしても受け入れがたい事情が出て来たという。

(一社)猟協代表の原田祐介さん(左)と、理事の仲村篤志さん(右)

「ボクはね、元々、この事業をはじめた一番の理由に、捕獲個体の100%利活用という理念があったんです。

猟師工房周辺という小さなパイの中ではそれが達成できたんですが、飯能市にはほかに解体場もないから、地域という少し大きな視点で考えると、個体数調整で捕獲されたものは相当な数が廃棄処分されている。そんな現状と理念とのギャップが、この地域で活動をしているうちに徐々に大きくなっていきまして……。

さらに国という視点で考えれば、年間100万頭以上が利活用されずに処分されているわけですからね。」

そんな折、「ハントラ」(原田さんが開発に携わった走破性と積載性を備えたプロハンター向けの車両)のデモンストレーションで全国を回っていた原田さんは、奈良県で同じく認定鳥獣捕獲等事業者として活動する株式会社TSJの代表・仲村さんと運命的な出会いをする。仲村さんは以前、商社勤めをしていて、企画や輸入、販売・卸売などの業務を担当していた。

「大きなマーケットだと、やっぱり大手の資本に負けてしまう部分がある。ある程度、業界の中心で関われる業種は何かと考えて、狩猟ビジネスに行き着いたんです。

実は狩猟はそこから始めて、だからこそ最初の年に300日ほど山に入りました。一年間、ずっと山に入ってると、いろんなことが見えてくる。その土地の地形や標高、気温や地表面温度、湿度や風向きなどから、獣にアプローチできるロジックが構築されていったんです。

結果、その年は300頭近くの獣を駆除できた。それで認定事業者にも認定されたんですが、それだけでは食っていけないんですね。地元猟師さんとの軋轢もあるし、なかなか仕事が回ってこない。

そこから地域の狩猟コミュニティや行政との関係性を色々と模索していきました。例えば猪はごちそうだから獲ると猟師さんも面白くないけど、鹿ならいいとかね。

そうこうしているうちに、遠距離のカワウとか、猟友会で取り組んでない駆除を任せられるようになって。だったら、静的射撃の精度を高めようと仲間達と訓練したりね。

そういう経験もあって、その地域の行政も含めた狩猟状況の中で、ベストな答えを見出して、次世代の認定事業者を目指す若手がきちんと生計を立てていけるシステムや組織を作っていきたい……そう考えているときに、原田さんと会ったんです。」

君津市との取り組み

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