見出し画像

進め、ヌートリア道! 〜 実録エアライフル猟

本稿は『けもの道 2017春号』(2017年刊)に掲載された記事を note 向けに編集したものです。掲載内容は刊行当時のものとなっております。あらかじめご了承ください。

【ご注意ください】狩猟を行なうには狩猟免許の取得、猟具等の取得・所持の許可、狩猟者登録などの手続きが必要なほか、狩猟期間や猟法、狩猟できる区域や鳥獣の制限等があります。狩猟制度に関する情報については「狩猟ポータル」(環境省)等でご確認ください。

“四つ足動物” ヌートリア

狩猟でいう “四つ足動物” と言えば、四足歩行する猪、鹿または熊というのが一般的だが、経験の浅い初心者猟師にはなかなか射獲のチャンスに恵まれない。仮に獲れたとしても、その個体の大きさから、回収には多大な労力が必要で、その後の剥皮や解体スペースを自宅に持ち合わせている猟師も少ない。

しかし、もっと小さく、労力が掛からずに狩猟ができる四つ足動物がヌートリアだ。

文・写真|佐茂規彦



【和名】ヌートリア 【科名】ヌートリア(Myicastoridae) 【学名】Myocastor coypus 【英語名】Coypu, Nutria 【原産地】南アメリカ 【特徴】頭胴長50~70cm、尾長35~50cm、体重 6~9kg程度 【定着実績】近畿(紀伊半島を除く)、中国、四国に集中し、東海、関東、九州にも分布域が点在する
  • ヌートリアによる生態系に関わる被害 …… 生態系に関わる被害 日本では本種と同じニッチを占める哺乳類は生息しないために、食草である水生植物を大量に捕食し、水鳥などと餌資源をめぐる競合関係が生じる可能性がある。

  • ヌートリアによる農林水産業に関わる被害 …… 西日本地域で農作物に対する被害が報告されており、食害や岸辺への営巣(巣穴)により、水田のイネや畑の根菜類に大きな被害を及ぼしている。


ヌートリアの観察

「ヌートリアは、流れがゆったりとした川の水辺に巣穴を掘って生息しています」

今回、同行取材させていただいた宮部さんは、普段は鹿・猪の巻き狩りグループに参加するほか、空気銃で鴨猟をしている。ヌートリアも獲り始めてすでに5、6年経つというが、観察し続けた結果、猟師目線でヌートリアの生態がかなり分かって来たという。

プロフィール:宮部裕介さん

今回、ヌートリア猟に同行させていただいた宮部さん(32歳)。岐阜県在住。子供のころから玩具のエアガンが好きでアームズマガジンなどで射撃の世界を知る。18歳で大学入学後は迷わず射撃部に入部し、エアライフル競技に親しむ。大学卒業後、社会人になってすぐに狩猟用空気銃を取得。愛銃はドイツの RWS 社の 5.5mm プレチャージ式空気銃「レイピア」。25歳で散弾銃取得。

「彼らの動きは遅く、川沿いの草むらの中にいたり、川をプカプカ泳いでいたりします。水中を移動するせいか体にダニは付いていないので、獲る側には助かります。

ヌートリアが多数生息している川辺では、ケモノ道ならぬ『ヌートリア道』が出来ていて、ヌートリアは基本的にその『道』から外れずに移動し、周囲の草を食べます。

キツネなどに襲われることはあるようですが、基本的に天敵がいないので警戒心は低いようです。皆さん興味がないので、あまり見たことがないかも知れませんが、静かに増えている感じがします」

エアライフルでの単独猟をする宮部さん。水辺の実猟経験を積むうちにヌートリアの生態が分かって来た

これがヌル〜いヌートリア猟だ

ヌートリアは初心者猟師向け

宮部さんが初めてヌートリアを獲ったのは狩猟を始めて3年目、空気銃で鴨猟に出かけていたときだった。

「鴨が全然獲れなくて、手ぶらで帰るのは嫌だな~と思っていたら、ヌートリアの姿を見つけました。動かないし距離も近いし、『これ、獲れるかも?』と思って撃ったら、簡単に獲れたんですよ」

それ以来、宮部さんは空気銃猟の初心者に、お勧めの狩猟獣としてヌートリアを紹介している。あまり動かず、出会いも多い。警戒心が低く、ラクに接近することが可能で、落ち着いて照準できる。

さらに大型獣の狩猟の練習にもなるという。哺乳類なので基本的な骨格は鹿や猪と似ており、解体の経験を積めるだけでなく、体が小さいので特別な解体施設を必要とせず、残滓の処理もしやすいのだ。

水質の良い川に生息しているヌートリアであれば肉は柔らかく、臭みも少ないので、美味しく食べられる。もともと毛皮をとるために輸入されているだけあって、毛の密度が濃く、剥皮後は毛皮にしてもいいだろう。

探さなくてもいるのがヌートリア

12月初旬、早朝から集合した宮部さんと私たち取材スタッフは、岐阜県某所の道路脇に車を停めた。ここは地元住民の車も普通に行き交っている場所だ。

「まだ山に入ってませんが、こんなところに『ヌー』がいるんですか?」

「ええ。特に山奥というわけではなく、山に近い川辺に普通にいますよ」

車を降りて身支度を整えて、道路沿いを流れる川の方へ未舗装の農道を歩いて行く。道路から50メートルも進んだだろうか。

暖かで平和な農道を歩く宮部さんと取材スタッフ。これでも狩猟中だ
ヌートリア猟スタイルの宮部さん。水辺を歩くので長靴必須。回収用のタモと釣竿も持っていくその姿はカモ猟師?

「あ、いますいます」

進行方向の先20メートルほどのところで、何か黒いものが見えたと思ったら、すかさず川へ向かって草むらへ姿を消した。

「あんな感じで、日が昇ると道端で日向ぼっこをしている姿を見かけます」

1匹目のヌートリアを目撃した農道の端。日当たりもよく、日向ぼっこには最適な場所だ。こんなところに寝るとは、やはり襲われる心配がほとんどないからだろう

ヌートリアの道

そこから川の方へ草むらを進む。生い茂る草むらのあちこちに、草が倒れたり生えていない何条もの道。幅は20センチほどだろうか。

「これが『ヌートリア道』です」

日本の多くの哺乳類は、よほどの必要性がない限りわざわざ動きの制限される川に入ることはない。一方、ヌートリアは泳ぐことに長けており、川と川辺の草むらを頻繁に行き来しているため、川から続くケモノ道があれば、それはヌートリアの生息の証である可能性が高いのだ。

「ヌートリアってネズミの仲間でしょ?」と思うなかれ。その生態はカワウソやビーバーを想起させるようだ。

ヌートリア猟のポイント。川の流れはかなり緩やかだ
川から続くヌートリア道。爪を立ててよじ登る跡が特徴的だ。ここだけ草が全く生えておらず、ヌートリアが通る頻度は相当なものだと予想される

そのとき、取材スタッフが水辺を渡る動物を発見。

「あ、いたいた!」

器用に鼻先を水面から出して、優雅に(暢気に?)泳いでいるヌートリアを発見。急いで宮部さんも銃を用意するが、先にヌートリアは着岸し、見失ってしまった。

せっかく出会った獲物を立て続けに見逃してしまった。

「いや、まだまだ出ますよ」

そう言って宮部さんは川岸にしゃがみ込み、ハンターの目で対岸を見つめる。鹿や猪と同様、狙うものはあくまで獲物だ。

ここから先は

3,041字 / 23画像

¥ 150

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?