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巻狩りのススメ 〜 見切りの思考

本稿は『けもの道 2020秋号』(2020年9月刊)に掲載された記事を note 向けに編集したものです。掲載内容は刊行当時のものとなっております。あらかじめご了承ください。


今回は、巻狩りのみならず単独猟においても大いに役立ち、狩猟の基礎的技術とも言える「見切り」について考える。見切りについては、犬を使用する場合もあるが、また別の機会に解説しよう。なお、バックナンバー『実践!見切り猟』(下記リンク参照)も非常に参考になるため、併せて一読いただきたい。

文・写真|羽田健志

獲物がいなければ獲物は獲れない

通常、巻き狩りは「見切り」から始まる。

「見切り」の正確な定義はないが、「見切り」とは「足跡や食み跡から獲物の種類、有無、数などを特定する作業」だと言える。

猟場が近い猟隊では、集合前にそれぞれが持ち場を見切ってから集まることも多い。魚がいない川や海に釣り糸を垂れていたのでは、どんなに良い道具や腕を持っていても永遠に魚を釣ることが出来ないのと同じことで、素晴らしい猟犬を擁した腕の良い猟隊が山を巻いたとしても、空山(からやま)では獲ることはできない。

獲物が増えた近年は、猪のみを狙うときは別として、見切りを省略することも多い。実際、鹿が多い山で鹿を獲物とする場合は、次々と山を巻いてどんどんやっていけば効率良く獲れる場合もある。また、猪の密度が濃い山でも次々に犬をかけていった方が手っ取り早い場合もある。

しかし、好条件に胡坐をかき続けていると、変化に対応できなくなる。

物事を繋ぐ能力

見切りには根気、判断力、決断力が要求される。そして多大な責任を負うことにもなる。抜けたひと足を見落とすことでその日の猟がすべて台無しになることもあるからだ。

また、時に自分との闘いを強いられる。見切りに時間がかかってくると、どうしても自分の都合の良い方に考えたくなるからだが、あくまで事実と向き合わなくては猟が台無しになる。見切りの結果を話し合い、どうしても猪がいることにならなくて丶丶丶丶丶丶丶丶丶丶、犬をかけずにその日を終えることもある。

猪がどの寝屋にいるかを突き止めるための見切りは、当然ながら数ある猪の寝屋の位置をすでに把握していることが前提になる。闇雲に痕跡だけを追い続けていても設計図はまとまらない。

その日猪が寝ている寝屋を中心に山を丸くする(仕分ける、島分けする)、あるいはあらかじめ島分けされた山の寝屋に、その日猪が寝ていることを痕跡から突き止めることになる。猪の寝屋を把握していること、その山を立体的に認識できていることは、見切りを効率良く進めるためには必要不可欠だ。

見切りを完成させるためには、点を線にし、線を面にし、あらゆる物事を繋ぐ能力が求められる。

初めての山を見切る場合も、まず寝屋の見当をつけてから始めるといい。そして、安全を担保したうえで、可能な限り小さく囲えば勝負が早い。

あるとき知り合いから、「山を丸くしたから勢子をやってくれるか」と頼まれ集合場所へ赴いた。到着し、どこに猪が寝ているのか聞くと「そんなの分かるか」と即答され絶句した。話にならないので見切り直すと、案の定、丸くしたはずの山からすでに猪は抜けていて、そこに人の足跡はついていなかった。

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