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【ソロハンターの流儀】猪犬とともに駆け出した単独猪猟師・中村神威

本稿は『けもの道 2019春号』(2019年4月刊)に掲載された特集記事『単独猟師(ソロハンター)の流儀』を note 向けに編集したものです。掲載内容は刊行当時のものとなっております。あらかじめご了承ください。


ソロハンター|中村鉄平(佐賀県出身・39歳)
敬虔なキリスト教徒(カトリック洗礼名ラファエル・ヒエロニムス)。「神威(かむい)」はハンドルネーム。10代で佐賀県を離れ、カメラマンとして働いた後、再び佐賀県に戻る。営業職などを経験した後、テーマパークで馬の調教をしたり、移動動物園を運営したり。3年前から現在まで、後継者不足にあえぐ「猿回し」と「猟師」の二足のわらじを履く、極めて異色な単独猟師。2015年にわな免許を取得、2017年からは銃猟を開始。

文・写真|佐茂規彦

猪犬の価値

「咬まない犬は価値がない。」

中村さんは犬を譲り受けたとき、そう聞かされた。

2017年度の猟期から銃猟デビューを果たした中村さんだが、初年度はまだ箱わな猟が主体だった。すると猪犬ししいぬを使う、とあるベテラン猟師から「犬を使えば30分で獲れる」と言われた。

「また、そんな吹かしやがって……」

半信半疑でその猟師の実猟について行ったところ、実際に中村さんの目の前で猪を獲って見せたという。

「『犬って凄いんだ……』って、正直、びっくりしました。」

初めて猪犬を知り、その猟法に触れた中村さんだったが、そのときの「猟法」は、咬み犬をたくさん入れて一気に猪を咬み止めてしまうという、単純で荒いものだった。その猟師はいわば「咬み犬至上主義者」で、咬まない犬には価値を見出していなかった。

わなに掛かった猪にさえ反応を示さない「価値のない犬」たちは山に連れて行ってもらえることもなく、犬舎に入れられたまま、鎖につながれたまま。そんな犬たちを見ながらその猟師は「犬が欲しいなら好きなの持っていけ」と言った。

中村さんはその年、出自も何も分からない犬を何頭か譲ってもらった。それが「虎鉄(こてつ)」「メイ」「ナツ」の3頭だった。

(写真右)虎鉄。5才。地犬系ミックス。(写真左)ナツ。2才。地犬系ミックス
(写真右)ぷーちん。1才。地犬系ミックス。メイの子。(写真左)裏の犬舎にはさらに出番を待つ3頭の犬たち

猪犬について何も知識が無かった中村さんには犬を選ぶ余地はなく、そのときはまだ「猪犬=咬み犬でなければならない」という考えだけが刷り込まれていた。

孤独ではない単独猟師

中村さんにはいわゆる狩猟の師匠はいない。もともと猿回しを始めようと思い立ったときに「猿を手に入れるなら、狩猟で獲ればいい」という勘違い(※猿は非狩猟鳥獣)から狩猟免許を取得した。

しかし、いざ狩猟をしてみると、周囲に住む茶農家からは「猪を獲ってくれ」と頼まれるようになり、独学で箱わな猟を始め、有害鳥獣駆除に従事するようになる。

犬を飼い始めたのも、猪をより効率良く捕獲するためだった。

2018年4月から毎日のように犬を山で引き始めた。近隣の山には鹿がおらず、大きな足跡や地面を掘り返した跡があれば、それは必ず猪の仕業であり、山裾の茶畑はかなりの被害を受けていた。

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