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札幌市・男性会社員を襲ったヒグマ、遺体を土で隠す|北海道|平成13年

本記事は書籍『日本クマ事件簿 〜臆病で賢い山の主は、なぜ人を襲ったのか〜』(2022年・三才ブックス刊)の内容をエピソードごとにお読みいただけるように編集したものです。


はじめに

本稿では、明治から令和にいたるまで、クマによって起こされた死亡事故のうち、新聞など当時の文献によって一定の記録が残っている事件を取り上げている。

内容が内容ゆえに、文中には目を背けたくなるような凄惨な描写もある。それらは全て、事実をなるべく、ありのままに伝えるよう努めたためだ。そのことが読者にとって、クマに対する正しい知識を得ることにつながることを期待する。万一、山でクマに遭遇した際にも、冷静に対処するための一助となることを企図している。

本稿で触れる熊害ゆうがい事件は実際に起こったものばかりだが、お亡くなりになった方々に配慮し、文中では実名とは無関係のアルファベット表記とさせて頂いた。御本人、およびご遺族の方々には、謹んでお悔やみを申し上げたい。

事件データ

事件マップ(定山渓付近) 参考:『北海道新聞』2001(平成13)年5月7日(夕刊)
  • 事件発生年:2001(平成13)年5月6日

  • 現場:北海道札幌市/定山渓

  • 死者数:1人

山菜を採りに山中に入り
連絡がとれなくなる

2001(平成13)年5月6日午前7時頃、札幌市の会社員・A(53歳)は単独で、定山渓の豊羽鉱山付近に「アイヌネギを採りに行く。午後3時には帰る」と言って車で自宅を出た。アイヌネギは主に北海道での呼称で、本州ではギョウジャニンニクとしても知られる。

定山渓とは札幌の奥座敷と呼ばれる、市内近郊の温泉街。豊羽鉱山は、定山渓から西へ約13kmの場所にあるもと金属鉱山で、2006(平成18)年に閉山している。

自宅からは車で1時間圏内と思われるが、午後3時を過ぎてもAは帰宅しなかったため、家族が探しに行ったところ午後7時ごろ、879.6mの山鳥峰やまどりほうに続く「山鳥峰林道」の入り口、白井川の「山鳥橋」付近に止まっているAの車を発見。本人がいないので南消防署に届け出た。

この付近では4月23日、26日にもヒグマの目撃情報があり、札幌市は看板を立てて注意を呼びかけていたところだった。

翌日7日の早朝、警察署員・消防署員・猟友会会員ら約60名が捜索に入り、午前10時頃車が止まっていたところから約200m山中に入った地点でクマを発見し射殺。その近くでAの遺体が発見された。遺体の下半身には部分的に土と、ササの葉が10本ほどかけられていたという。

下半身は土で覆われ
クマザサがかけられていた

現場は、豊羽鉱山とよはこうざんの約2km東寄り地点の幅2~4mの沢で、まだところどころに雪が残っており、流水幅は1~2mくらいだった。水深は浅く、深みを避ければ長靴で歩けるほど。その沢の入り口から約200m行くと流れが二股になっており、7日の捜索時にはそこでAの長靴の片方が見つかっている。

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