軽井沢でクマとの共存を支えるヒトとイヌ 〜 本州ツキノワグマ対策最前線
日本有数の別荘地、長野県軽井沢町。日中、人々は都会の喧騒を忘れて豊かな自然に触れ合い、夜には涼しげな虫の鳴き声に包まれて深い眠りにつく。そしてその頃、ピッキオのメンバーと優秀なベアドッグによるクマの追払い活動が静かに始まる。
文・写真|佐茂規彦
ピッキオが取り組むツキノワグマ保護管理事業
ピッキオ(picchio=イタリア語でキツツキの意味)は、軽井沢を拠点に野生動植物の調査研究および保全活動を行うとともに、自然の不思議を解き明かすエコツアーや環境教育を行っているエコツーリズムの専門家集団。1992年に当時の株式会社星野温泉(現在の株式会社星野リゾート)が設置した野鳥研究室に始まり、その後「ピッキオ」と改名し独立して、現在に至る。
事業の1つにツキノワグマ保護管理事業を行っており、日本初のベアドッグ(クマ対策犬)を用いるなど最新技術を活かした手法で、人とクマが共存できる地域づくりを目指した活動を行っている。
クマ対策の概要
ピッキオが行っているツキノワグマ保護管理事業のうち、軽井沢町からの委託事業は活動の中核となるものだ。
「クマは個別に問題行動を起こすかどうかを判断し、捕殺は必要最低限しか行いません」と玉谷さんは強調する。
ピッキオでは、ゴム弾を当てるなど害の残らない方法によって「人は怖いもの」と学習させてから放獣し、クマにできるだけ人のいる場所に近寄らないようにさせる。有害駆除の許可も出てはいるが、クマとの共存を目指すため、個別に問題行動を繰り返す個体などに対してのみ、やむ無く捕殺という手段がとられる。
また、学習放獣の前には麻酔で眠らせ、電波発信機を装着し、放獣後もその行動を追跡できるようにし、必要に応じて追い払いを行う。
ピッキオがクマに発信機をつけて放獣をするという対策を開始したのは1998年。当時は山奥の旅館に複数のクマがゴミを漁りに来ることが常態化しており、観光客も怖がるどころかその「野生のクマの姿」を見たがるため、旅館側も一種の「観光資源」として扱っていたという。
しかし「人とクマとの共存には望ましい姿ではない」との思いから、ピッキオが活動を開始し、2000年の下半期からは正式に軽井沢町の委託を受けて、本格的にクマ対策を行うことになった。
クマに荒らされないゴミ箱の設置を推進し、クマには発信機をつけて放獣し、その行動を監視した。今までに捕獲したクマの数は累計170頭に上り、うち116頭に発信機を装着している(平成29年8月2日時点)。
活動当初は、別荘地という特殊な土地柄もあり、「人々を怖がらせないよう必要以上に気を使うことが多かった」が、今ではピッキオの活動内容も周知され、クマに対する直接的な対応のほか、町主催の野生動物の報告会においてクマ対策を住民や別荘利用者に説明したり、地元小学校で子供向けにクマ対策の講習を開催するなど、住民理解にも力を入れている。
さらに軽井沢町がクマの目撃情報を速やかにメール配信するなど、積極的な情報発信もされるようになった。
深夜の追い払い活動
ピッキオでは、日中、クマの錯誤捕獲や目撃情報への対応のほか、深夜帯には放獣されたクマに装着されている発信機からの電波を辿り、そのクマの行動を監視し、必要に応じて追い払い活動が行われている。
軽井沢では人を避けて夜に行動するクマが多いので、追い払いも夜を徹する作業になる。町内を森林地帯、別荘地、定住者の居住地の3地域に分け、テレメトリー調査によりクマの位置を割り出し、別荘地や居住地に出て来ているクマを朝までに森林地帯まで追い払うのだ。
追い払いは軽井沢町から6~10月にかけて委託されている作業になる。クマの行動が活発になる時期でもあり、人々が避暑のために軽井沢を多く訪れる時期でもあるため、人とクマとの接触を未然に防ぐ必要性が高いのだ。
期間中は毎晩、行動監視と追い払いが行われ、平均して1日あたり3~4頭が追い払い対象になるという。
ベアドッグ
ピッキオのクマの追い払いには、今回の取材の目的の1つでもあるベアドッグ(クマ対策犬)が使役されている。「カレリアンベアドッグ」の「ナヌック」と「タマ」の同胎犬だ。
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