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ハンターのためのヤマビル対策講座

本稿は『けもの道 2018春号』(2018年4月刊)に掲載された記事を note 向けに編集したものです。掲載内容は刊行当時のものとなっております。あらかじめご了承ください。


気付けば知らないうちに足から血が! マダニに並ぶハンターの天敵、ヤマビル。

春から秋にかけては、非猟期中の有害鳥獣駆除のほか、ハイキングやBBQなどの行楽イベントも目白押しだが、その時期はヤマビルの活動期にも当たっている。

正しい知識を持って、ヤマビルの吸血からハンターの大事なお肌を守ろう!

文|一般財団法人環境文化創造研究所 ヤマビル研究会
谷重和

全国的なヤマビル吸血被害地域の拡大

この十数年間で全国的にヤマビルの生息域が拡大している。

北は秋田から、南は宮崎・鹿児島までの34都府県に吸血被害が拡大しており、特に、栃木・群馬・千葉・神奈川・岐阜・三重・滋賀・兵庫などでは吸血被害地域が著しく増加している。

全国におけるヤマビルの被害地域

これらの地域では林業関係者やハイキング、キャンプに出かける人々の間ばかりでなく、里山近くの住宅地にまで吸血被害が及んでいる。

ヤマビルの生態を知ろう

ヤマビルはミミズと同じ仲間の環形動物で、体長は3~4cm、伸びると5~7cmにもなる強い伸縮性があり、引っ張ってもちぎれないほどの強靭な筋肉を持っている。

体の色は赤褐色から茶褐色で、背面に3本の黒い筋が縦に走って見えるのが特徴。陸上、特に山地の森林に生息しており、強い吸血能力を持った生き物である。

梅雨時の6~7月や秋雨の9~10月の時期に活発に吸血する。体の前端(前吸盤)と後端(後吸盤)に各1個の吸盤を持ち、後吸盤で体を支えながら尺取虫のように歩く。

なお、ヤマビルは雌雄同体であるが、ほかの個体との相互交接もよく見られる。

乾燥には弱く、暗くて湿気の多い場所を好み、通常は枯葉の裏や枯れ木、草・石の下でじっとしているが、動物が近づいてくると体温・炭酸ガスや動物の歩く振動を検知して(前吸盤周囲に体温・炭酸ガスなどを感知する感覚器官を持っている)動物の足やヒトの靴や衣服に付着し、吸血する。

吸血するときには前吸盤の中にある顎歯(がくし)と呼ばれる細かい歯で動物の皮膚を切り裂いて吸血する。

ヤマビルは吸血すると、1ヶ月程度で卵塊らんかい(中に5~10個の卵子が入っている)を地面に数個産み、さらに1ヶ月を経過すると卵塊の中から仔ビルが誕生する。仔ビルは吸血するたびに脱皮を繰り返して大きくなり、3~4年は生きると言われている。寒さには強く、室内試験ではマイナス2℃で一晩放置しても生存していた。

ヤマビルが1時間も吸血し続けられるワケ

ヤマビルは前吸盤の中に逆Y字型をした筋肉質の3つの顎があり、それぞれの顎には顎歯(がくし)と呼ばれる非常に細かい歯が70~80個、2列に並んでいる。吸血するときにはこの3つの顎を上下に動かしながら細かい歯で動物の皮膚を切り裂いてあふれ出てくる血液を吸う。

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