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肉が食べられなくなる!? マダニ由来のアレルギーとは?

本稿は『けもの道 2019秋号』(2019年9月刊)に掲載された記事を note 向けに編集したものです。掲載内容は刊行当時のものとなっております。あらかじめご了承ください。


マダニの祟り?

「ワシは長年、動物を獲って来たが、肉が食べられなくなってしまった。きっと、山の祟りじゃぁ……」

っと、こんなことを言っているベテラン猟師は読者の皆さんの周りにいないだろうか。命を奪われた動物たちの恨み? 山の祟り? 狩猟反対派でなくとも猟師が本当に肉を食べられなくなったらそんな風に考えてしまうかも知れない。

しかし、実はこれがマダニに刺されることによって引き起こされるアレルギー反応の一つだというのだ。SFTS(重症熱性血小板減少症候群)だけじゃないマダニ刺症を避けるべき理由をご紹介しよう。

文・写真|佐茂規彦

今回お話を伺った人|夏秋優さん(医学博士)
庫医科大学皮膚科学准教授虫刺されなどによる皮膚疾患の専門家著書『Dr. 夏秋の臨床図鑑 虫と皮膚炎 皮膚炎をおこす虫とその生態 臨床像・治療・対策』

肉アレルギー発症原因にマダニ刺症の可能性

マダニに刺されて肉アレルギーになるかも知れないなどという話、入手したはいいが、詳細は誰に聞けばいいのか?と頭を悩ませていた筆者であったが、思いがけず編集部(大阪府)からほど近い兵庫医科大学に、虫刺されによるアレルギー症状の専門家がいるという情報を得た。

その方が同大学、皮膚科学准教授の夏秋優さん(医学博士)だ。さっそく兵庫医科大学を訪れ、ご本人に単刀直入に疑問をぶつけてみた。

筆者「マダニに刺されると、肉が食べられなくなるって聞いたのですが、本当にそんなことがあるんでしょうか?」

夏秋さん「はい。マダニ刺症によって『獣肉アレルギー』の症状を呈する可能性はあります」

なんとあっさり、そして恐ろしい答えをいただいてしまったのだが、実は専門家の間では、マダニ刺症由来の獣肉アレルギー自体は新しい話でもないという。

夏秋先生によると、このテーマに関連した国内の調査・研究としては過去に島根県内と静岡県内で実施されているそうだ。

島根県内の調査は、牛肉アレルギー患者の多くがマダニ刺症に由来する日本紅斑熱にほんこうはんねつの多発地域に居住していることを突き止め、さらに牛肉に含まれる特定のアレルギーの原因物質(以下「アレルゲン」)が、フタトゲチマダニの唾液腺から抽出した物質中からも検出されたことから、マダニ刺症による牛肉アレルギー発症の可能性を推定している、というものだ。

フタトゲチマダニの成虫(メス)(写真提供:夏秋優)

つまり、マダニの唾液腺と牛肉には同じアレルゲンが含まれており、マダニに刺されることで人はアレルゲンを体内に取り込み続けてアレルギー抗体を獲得していることが推定され、結果的に牛肉を食べるとアレルギー症状を呈するようになった可能性があるというのだ。

ちなみにこの調査では「牛肉アレルギー」とされているが、このアレルゲンは牛だけでなく豚や猪、鹿や熊など四つ足獣の肉全般に含まれており、「獣肉アレルギー」とする方がより正確な理解となる。

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