見出し画像

猪犬の選び方・育て方 〜 三重県中島猪犬訓練所編

本稿は『けもの道 2017秋号』(2017年刊)に掲載された記事を note 向けに編集したものです。掲載内容は刊行当時のものとなっております。あらかじめご了承ください。

狩猟を行なうには狩猟免許の取得、猟具等の取得・所持の許可、狩猟者登録などの手続きが必要なほか、狩猟期間や猟法、狩猟できる区域や鳥獣の制限等があります。狩猟制度に関する情報については「狩猟ポータル」(環境省)等でご確認ください。


文・写真|網地貫

猪犬の選び方

「猟師一代、犬一匹」

長い狩猟人生の中で数多くの猟犬を飼育しても満足できる犬と出会えるのはたったの一匹ということわざだ。

よく「高名な系統の犬を大枚はたいて譲り受けたが全然ダメだった。騙された。」という話を聞く。

猟能とは遺伝するものなので、代々優秀な血統から入手すれば良い犬に巡り会う確率は上がる。名犬同士から生まれる子がすべて優秀なら大量生産も可能なのだが、そう簡単ではないから難しい。

特に猪猟は、鳥猟や兎猟とちがって、獲り方や猟芸のバリエーションが豊富、悪く言えば確立、固定されていないので、なおさら難しくなる。

また繁殖者側も騙す気はないと思うのだが、どうしても自分の愛する血統可愛さに宣伝文句が誇張されてしまうこともある。

猟を始めたばかりの初心者にとって最初の猟犬選びはなおさら重要だ。最初に素質のない犬を飼ってしまうとまったく猟果に結びつかず、猟そのものがつまらなくなってしまう。

なのでできる限り猟犬選びは慎重になりたいものだが、たいてい初心者ほど、「怪我をされるのはイヤだから、ヒット&アウェイで華麗に猪を翻弄してくれる犬がいいな。でもときには格闘する強さも欲しい。たくさん飼うのは大変だからこれを一匹でやって欲しい。あと散歩してたら人が振り向くくらいカッコいい犬がいいな。」などと、無知なるがゆえの贅沢な夢を見る。

それでいてロクに調べもせず、安易に犬種や外見で選んで失敗するのだ。

あ、これは若かりし頃の筆者の恥ずかしい戯言なので無視していい。

さて、某小説では、尻尾を持ってぶら下げて悲鳴をあげない仔犬が良いとあったり、某漫画には虎毛が良い猟犬の条件とあったり、ある人は角ばった鼻の犬は猟欲が強いと言い、ある人は尾の巻き方で判断できると言う。

その信憑性はともかくとして、玉石混淆の猟犬界、いかにして良き素質を入手して、いかにして育てれば良いのか。

それならやはり経験豊富なプロの意見こそ参考にすべきだろう。40年近くの間に2千7百頭余、現在進行形で年間70頭以上もの猟犬を選別、訓練し続けている中島猪犬ししいぬ訓練所所長、中島毅氏に話を聞くことにした。

お話を伺った人|中島猪犬訓練所代表 中島毅さん
1955年生まれ。幼少より叔父から狩猟の手ほどきを受け、12歳から猪犬ししいぬを飼育。1978年、23歳の時に中島猪犬訓練所を開設。年間100頭以上の猪を捕獲。現在までに2,700頭以上の猪犬を作出、訓練を続けている。中島猪犬訓練所のWebサイトはこちら

猪犬を選ぶ)生後2~3ヶ月齢の仔犬

メリット

  • 自分で一からオリジナルの猟犬を育てあげる醍醐味があじわえる。

  • 馴れやすく愛着がわく。

  • 入手しやすいうえ、希望が無限大。他の人のクセがついていないので、訓練に自信がある人で、犬の素質さえ確かなら自分好みの猟犬に育てることができる。

デメリット

  • 人間なら幼稚園児くらいで、成犬時の素質を予想するなど「占い」と大差ない。何千頭見てきてもこれはわからない。

  • 素質がない可能性もあるうえ、さらに訓練も自分でしなければならないので初心者にはお勧めできない。

  • しいていえば、初対面の人間が呼んですぐ駆け寄ってくる仔犬よりも慎重に様子を見てから寄ってくるような警戒心のある仔犬の方が良い猪犬になる確率が高い|気がする《》レベル。

ここから先は

3,481字 / 6画像
この記事のみ ¥ 150

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?